　今日の社会は自由な個人によって形成されていますが、その結果人間の生き方についてまで自由選択課題とされています。ところが現実には自分の思いのままに生きていくことはできず、生活していくためには何らかの妥協を強いられます。
　何故妥協を強いられるのでしょうか。それは大勢の他者がいるからです。にもかかわらず、今日の社会では大勢の他者は人格としては自分の前に現れてきません。それは競争相手であったり、雇い主であったり、従業員であったり、商品の売り手であったりはするのですが、ここには相手の人格を認めた上での関係ではなく、世間一般のしきたりとして、お金で関係が取り持たれています。
　そこで一つのジレンマが現れます。自由選択課題としてある生き方について、妥協をせずにある生き方を選択した時、それが世間一般のしきたりに合っていなければ事実上その生き方は実現されないのですね。今日の社会は自由な個人から構成されていると観念されているにも係らず、この自由には制限がありました。お金の関係からは自由にはなれないのですね。
　60年代の経済が高度成長している時代には、お金の関係も社会を近代化していく方向性を持っていて、個人の生き方として社会の進歩への貢献を選んでも、お金の関係とは折り合っていけました。ところが30年後の90年代になると日本社会は工業化という意味での開発が終わり、経済成長も停滞し、社会は大きく変化しようとしています。そして21世紀を迎えましたが、現在でも社会の進歩についての合意は得られてはいません。
　社会の進歩についての合意が困難になった一つの原因は、お金の経済が80年代後半から大きく変化し、それがものを交換する手段や、ものを製造する手段という従来の機能のほかに、お金を売買して利ざやを稼ぐという第三のシステムが世界規模で成立し、これが支配的になったことに求められます。第一の、ものを交換するシステムからは、個人の自由と平等という観念が生まれてきますし、第二の、製造するシステムからは、工業化による開発という社会の進歩のイメージが生まれてきます。しかし第三の、利ざや稼ぎのシステムからは、社会がどうすればいいのかというメッセージは生まれてきません。『金持ち父さんと貧乏父さん』という本がありましたが、この第三のシステムでは他人を出し抜くことが奨励されていて、社会など視野の外に置かれます。
　自由と平等の観念はほぼ実現されて世間一般の通念になり、工業化も達成された後、メディアとしてのお金が送るメッセージも混濁してきました。人間が生き易い社会をどう作っていくか、ということが課題となっているのですが、環境にやさしい社会や、持続可能な社会といった課題と同様に、今のところ単なるスローガンを掲げたにとどまっています。そこで私たちは人間が生き易い社会の実現を今ここから目指すことにしました。

2）人がメディアになれる社会

　お金の法則に順応しているだけでは社会が持たないし、人間も持たない、という考えは結構広まっています。ところがこれらの人々がまだお金に代わるメディアをもてていないという現実が有ります。
　お金のメディア力は、意志支配されることに順応するという人間の順応力と、それなしに生活ができないという飢えの規律にあると思われます。お金のメディア力を弱めようとすれば、お金に順応するのではなくこれをコントロールできるような事業のシステムがとわれます。
　ワーカーズ・コレクティブがお金をコントロールしながら、生活を保証して行けたら、ここには一つの新しい文化が生まれたことになります。この文化はそれ自体が伝染していくものだからメディア力を持つとおもわれます。
　文化とは人間の生きざまが発信する社会形成力であり、お金に順応しない生き方が実現すれば、その生きざまが今の世間並みの文化とは異なる社会形成力を発揮しそれがメディア力となるのではないでしょうか。
　メディアとしてのお金の力は今日でも強力です。生き易い社会とは、人がメディアになれる社会だと考えると、お金をコントロールできるような事業活動がメインになった社会というイメージが描けます。そしてこのような事業は既に多くの地域で始まっています。そのポイントは雇われて働くことを止めて、ワーカーズ・コレクティブのように、働き手が出資もし、事業の管理もする事業体を創り出すことです。
　このような「もう一つの働き方」を実現できる事業所をたくさん作ることで、事実上お金の関係で制限されてきた、生き方における自由選択権の幅を拡大していけます。

3）家族を地域に開く

　お金で関係を取り結ぶことが始まると、伝統的社会（資本主義以前の）人間関係は順次お金の関係に代替されていきました。まず都市化が始まり、都市近郊の農地が宅地にされ、農村共同体は解体されました。それに伴い大家族も核家族へと解体されていきました。
　伝統的社会では家族は大家族であり、農業や手工業の生産単位であって、それは地域の共同体に開かれていました。ところが大家族が核家族となり、生産の単位でなくなって労働力の供給基地となり、又地域の共同体などの人間関係が解体されることで、例えば団地のように、人々が集合して住んでいながら、人々の隣近所の付き合いが無く、人々は核家族に閉じ込められてしまいました。
　お金の関係に頼った核家族では次世代を育てられない、この事がこの10年間で明確になってきたようです。お金の関係とお金のメディアが発信する文化が社会の進歩や人間の生き易さや環境保全と結びつかなくなった今日、あらためて、家族を地域に開くことからやり直さなければなりません。
　家族を地域に開くといっても、以前にあった地域の人間関係は、完全に崩壊しています。地域の人間関係を新しくどう紡いでいくか、ということと、家族を開くということとは同時進行されなければなりません。
　そこで地域の人間関係を新しく紡ぎ出せるものがワーカーズ・コレクティブではないでしょうか。

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Author: ebara Published: 2006/11/28 Read 2787 times

NSワーカーズの活動の基本的考え方 2003.11.19

1）人間が生き易い社会を求めて

2）人がメディアになれる社会

3）家族を地域に開く

NSワーカーズの活動の基本的考え方　2003.11.19