■分析的抽象と事態抽象とのちがい
　このことはつきつめれば、存在の様式と思考の論理とが異なっていることを示してはいないか。
■存在の様式と思考の論理との他者性
　エンゲルスは、存在の論理も思考の論理もともに同一で、その論理は弁証法だと考えていた。
　おそらく、ほとんどの哲学者は存在の論理と思考の論理の同一性を前提にしており、これに対する異論は、存在者そのものは認識できない（あるいば客体的なものは存在していない）と見る懐疑論からなされていたが、懐疑論は他者としてある客体について規定できなかった。
■思考は絶対的他者としてある存在を認識できるか
　思考の論理の限界を知ること、そして、人間に身近のものとしてある商品、貨幣、資本といった人間の社会関係の存在様式に思考の論理を順応させることができれば、解決するのではないか。

(2)「哲学の旅」第1回西田哲学、序文（1996年）

■商品の価値形態の論理を誰にでもわかるように
　既成の理論や論理とは異なるものを展開しなければならない。
　定言命題的に述べられるが、そうすると違和感が先立つことになろう。
　既成の哲学の思考をさらにつき進めれば、新しい見地に到達できないか。

(3)旅の一里塚にて、既成の哲学への批判

■存在の論理と思考の論理の一致という従来の前提にその不一致を対置する。
■意志の自律という従来の前提に対してそれを疑う。
■主体と客体とを媒介する媒介者は対象化されえない、という従来の前提に反して、媒介者を対象化された形態においてしか認めない。

(4)第2回「ハイデガーの哲学」

■世界＝内＝存在とは何か
　ハイデガーはそう考えてはいないが、社会的類としての人間が形成している記号の世界のこと。人間の認識の対象化された形態、生きた思考による対象化された意識の生産様式。
■思考と存在との同一性
　この同一性は双方が対象化された意識だ、というところにある。ハイデガーにとっての存在は、意識の圏にあるもの。
■存在＝神論の批判について
　無限者としての神とは人間の社会的類性のことに他ならない。
■旅の今後
　意識を意識形態として、対象的活動として捉えること。

(5)第3回「廣松哲学への疑問」

■関係の両極
　廣松は関係の両極が形態規定されることがつかめていない。
■主観・客観図式
　これが何故人々の意識のうちに生み出されるかを明らかにすべき
■実体
　実体についても、極を実体と捉え、社会性を見失うことが何故おきるかを明らかにすべき。

(6)番外「『モモ』を読む」

■エンデの新しい思考
　エンデの場合、芸術論の見地から、科学知の批判を試み、文化知に接近していた。ゲーテに注目し、カント以降のドイツ観念論に批判的だった。
　エンデの二元論批判には、商品、貨幣、資本を批判する見地に裏づけられていた。
■言語論の展開方向
　言語自体にコミュニケーションの機能を発見すること、自然物（音やインクのシミ、記号の自然的質）がそのままで概念の化身とされているから、人は言葉でコミュニケーションが可能となる。

(7)第4回「エマニエル・レヴィナス論」

■個の唯一性
　レヴィナスの唯一性とは、人間の社会性のあり方、つまり人間の存在の様式が思考の論理とは異なることを述べようとしたもの。言語論の検討が残されている。

(8)第5回「カント研究序説」

■超越論的仮象論
　これは言語のフェティシズムとして展開した方がよい、物自体と現象とをわけるやり方は、人間相互の関係にまで貫徹されていない。しかし、これは科学的世界観への根本的な批判としての意義をもつ。
■ヘーゲル弁証法の転倒
　カントの根本思想を復権して、弁証法を組み立ててみる。
　『ASSB』8巻6号15頁参照

(9)第6回「ローティ『偶然性・アイロニー・連帯』を読む」

■デヴィドソン
　ローティをとりあげてよかったのは、デヴィドソンのフィールド派言語学の思想をつかめたこと。

2）旅の帰結

(1)カントとヘーゲル

　カントの超越論的仮象論を生かして、弁証法を組み立てられないか。これが、ヘーゲル弁証法の転倒にはならないか。

(2)存在と意識

　「存在と時間」（ハイデガー）「存在と所有」（マルセル）「存在と無」（サルトル）「存在と意味」（廣松）「存在と論理」（高峯）
　存在の様式と意識における思考の論理との絶対的他性という見地から、ギリシャ哲学、ドイツ観念論を洗い直してみる。その際にヘーゲルの哲学史を素材とすることで、ヘーゲル弁証法の転倒の実践を行う。

B）存在と意識

1）予備的作業、ヘーゲルの見たギリシャ哲学

(1)ヘーゲル哲学史の視点

　「哲学史の全体が内部に必然性のある一貫したあゆみだということ、内部に理性をもち、理念にみちびかれたあゆみ」（『ヘーゲル哲学史講義』長谷川訳、上、40頁）
　ヘーゲルは哲学史を弁証法の形成過程として描いている。

(2)イオニアの哲学

　タレスとともにはじめて本来の哲学史がはじまる（上、160頁）
　本質は形なきものである、これがタレスの原理の核心。
　水という原理「一なるものこそ本質であり、真理であり、完全無欠なものであることを意識させる…ここには感官によって知覚されるもの、直接に存在するものとの分離が、それから身を引くうごきがあらわれている」（上、167頁）

(3)ピタゴラス派

　数が原理、思考は感覚的なものからはなれ、知的なものと自然存在とが分離する。（上、180頁）
　「感覚的な実在を根絶し、観念的な実在をよび出してくる…世界の本質が非感覚的なものとして表現される」（上、193頁）

(4)エレア学派

■ピタゴラス派は、概念を純粋思考として表現する形式をもっていなかった。
　エレア学派は「絶対的な実在を純粋概念ないし思想として表現すること、そして概念ないし思考の運動を示した」（上、225頁）
■弁証法のはじまり
　「思想は自己を純粋に把握し、思想が概念のうちを運動する…概念における思考の純粋運動」（上、225頁）
■パルメニデス「存在はあり、無はない」
　「思考と思考の主題とは同じもの」
　多様な現実の存在者から「ある」という必然的なものだけが真理だとした。（上、238頁）
■ゼノン弁証法の創始者
　無や運動の否定を「あると仮定されたものがおのずとみずからを否定していくさまを示す」（上、242頁）
　ゼノンの弁証法について、ヘーゲルは非常に高く評価し、カントのアンチノミーをゼノンの引き写しと述べている。ゼノンの提起、アリストテレスの解決、カントのアンチノミー、ヘーゲルの解決、ベルグソンの見解、これは本来のテーマをなす。しかし、今回はとりあげない。

(5)ヘラクレイトスの哲学

■弁証法
　ゼノン主観的弁証法
　ヘラクレイトス客観的弁証法　弁証法そのものを原理ととらえた。
　「存在は一なるもの第一のものであり、第二にくるのが生成である」（上、265頁）
　　　　　ef.ヘーゲル論理学　存在―無―成
　「ヘラクレイトスの命題で、私の『論理学』のうちにとり入れられなかったものは一つもない」（上、265頁）
■実在的なものと観念的なもの
　「実在的なものと観念的なもの、客観的なものと主観的なものとの統一がとらえられ、主観的なものは客観的なものに『なる』もの、さもなくば真理なきものであり、客観的なものは主観的なものに『なる』ものだとされる。」（上、270頁）
■差異
　対立物は自分の相手である、同一性がある。
■過程としての自然
　自然はそれ自身が過程です。
■思考の本質は世界の本質
　「わたしの知る理性的真理は、対象の存在にまつわる感覚性、個別性、特殊性をぬけだしたものではあるが、理性が自己のうちに知るものは存在の必然性ないし普遍性であって、それは思考の本質であるとともに世界の本質でもあるのです。」（上、284頁）

(6)レウキッポスの哲学

　パルメニデス　存在という抽象的な不変を原理に
　ヘラクレイトス過程を原理に
　レウキッポス　自立存在（向自有）を正、空虚を負
　自立存在は否定の否定
　「思想こそが事物の真なる本質」（上、300頁）

(7)アナクサゴラス

　純粋な思想が真理
　世界や自然のうちに知性や理性がある。（上、309頁）
　法則、知性、理性は自然に内在するもの、自然の本質
　「思考とは自己と対象とが一致すること」（上、315頁）

(8) ソフィストの哲学

　プロタゴラス　人間が万物の尺度である。
　「プロタゴラスの命題はものの見方を大きく転換させ、すべての内容、すべての客観が意識との関係なしには存在せず、思考こそがすべての真理にとって本質的な契機となることをいっている。」（上、369頁）
　ゴルギアス「つたえられるものは存在ではなく、ことばにすぎない。」「ゴルギアスの弁証法は観念と存在のちがいに固執するものですが、このちかいは、カントにあってふたたびとりあげられる。ちがいに固執するかぎり、いうまでもなく、存在するものの認識は不可能になります。」（上、369頁）

(9)ソクラテスの哲学

　「思考の主観性がさらに明確に、徹底的に意識にもたらされます。」（上、371頁）
　「主観は主観でありつつ、客観的かつ普遍的たりうるのか。ソクラテスはまさに普遍的自我こそが、自分の内部にやすらぐ善なる意識こそが、善そのものが本質だという。この自我は存在する実在から自由であり、意識と実在との関係――感情や欲求――から自由であり、最後に、自然を理論的に観察する思想からも自由です。」（上、372頁）
　「真の思考というものは、内容を主観的ではなく、客観的だと考えるもので、客観的な内容を相手としながら自己を失わないのが意識の自由――いや自由そのものなのです。」（上、373頁）
　「ソクラテスの論理は、人間が、人間の使命が、人間の目的が、世界の究極目的であり、真理であり、絶対的なものであること、――人間は真理を自分のなかから見つけ、自分自身の力で真理に到達しなければならないこと――そういいあらわせます。」（上、373頁）
　ソクラテスの教えの主体は道徳です。

(10)小結

■自然哲学の洗い直し
　古代ギリシャの哲学のはじまりはそもそも自然哲学だった。
　ソクラテスをへて、プラトンに到ると人間の社会が哲学の対象に組み込まれる。
　存在と意識というテーマでさしあたってギリシャの自然哲学の範囲で洗い直しを行う。

2）ゼノンの弁証法

(1)ヘーゲルの把握

■パルメニデス「一切は不変である。なぜなら変化とは存在するものが存在しなくなることだが、実際には、存在しかなく『非存在がある』というのは主語と述語が矛盾するから」（上、242頁）
■ゼノン「変化があると仮定したまえ、すると変化そのものが変化の無となることをしめし、無となる。」（上、242頁）
　「なにかがあるときそれが生成してきたということはありえない。（このことをかれは神と関係づけます。）生成は同等なものから生ずるか不等なものから生ずるかのいずれかだが、どちらも不可能だからだ。なぜなら同等なものから生ずるときそれ以上のものからうみだされねばならないが、それはたがいにおなじ内容をもつという同等なものの定義に反するのである。」（上、244頁）
■ヘ－ゲルの評価
　「推移の根底にあるのは『無は無のままで存在に移行しない。逆もまた真で、同等なものから同等なものも不等なものも生じない』という同一性の原理です。」（上、246頁）
　ゼノンによる運動の廃棄は一方が真、他方が無というゼノンの区分によるもので、「観念の非存在が観念自身のもとにあらわれる、つまり観念が自己のうちに矛盾をもつ、という形でその非存在が示されたわけではありません。」（上、248頁）
　ヘ－ゲルによれば、－者があるというとき、この概念には－者以外のものはない、という否定を含んでいる。存在（ある）→無（ない）→成（なる）という過程的弁証法は「ある」を思考のうちで「ない」との統一物、二重物として捉えること、このような思考の運動を念頭においている。

(2)ゼノンの背理（運動についての）

■四つの証明で運動が真なるものではないことを示した。
　運動は目標に到達しない。アキレスと亀。飛んでいる矢は静止している。レ－ス場の反対方向に走る車。
■アリストテレスの反論
　時間と空間は実際は無限に分割されるのではなくただ無限分割が可能なだけ。
■ヘ－ゲルの反論
　空間のうちにある点とか連続する瞬間のうちに瞬間がおかれたりすることになんの矛盾も感じられないが「概念としてはそこに矛盾がある」（上、253頁）「自己同一の連続は絶対的なつながりであり、すべての区別や否定や分離独立を抹消するものですが、これに反して、点は純粋な自立、絶対的な分離であり、すべての同一性や他とのつながりを廃棄するものです。が、この二つが空間と時間においては統一されてあらわされるので、だから空間と時間は矛盾そのものです。しかも矛盾は運動においてもっとも明瞭にしめされる。運動では、対立するものが目の前にあらわれるからです。運動とは、まさしく時間と空間の本質であり、実体であって、運動があらわれて対象となるとき、まさに現象する矛盾が対象となっている。ゼノンが注意を喚起したのはこの矛盾だったのです。」（上、253頁）

(3)プラトン『パルメニデス』前半部分

■ゼノンの提起
　「もし存在が多であるなら、同じものが似ていると同時に似ていないことになる。だがしかし、同じものが似ているとと同時に似ていないことは不可能である。したがって存在は多ではない。（プラトン全集、7頁）
■イデア論（エイドス）
　「あなたは〈似る〉ということ、（類似性）が何らかのエイドス（形相）としてそれ自体で独立に存在することをみとめませんか。またさらに、このようなものに反対の何か他のもの、すなわちまさにそれこそ〈似ない〉のであるというもの（不類似性）の存在を。そしてこの二つの存在に対して、わたしやあなたやその他の雑多とわれわれが呼ぶところのものが、組をなしていっしょにこれを所有（共有・分有）するようになる（＝分取する）ということを。そしてあるものはその〈似る〉というエイドスを分取することによって似るものとなり…。」（同、10～11頁）万物が1の分有によって1となり逆に1が多の分有によって多となる。
■パルメニデスによるイデア論批判
　エイドスが存在するとしても、それは部分によっても全体においても分取できない。
■プラトンの反論（ソクラテスの口を借りての）
　「これらのエイドスのそれぞれはおそらく観念なのかもしれません。そしてそれが生ずる場所としては、心のなか以外に適当なところは何もないかもしれません。」（同、19頁）
■パルメニデス
　観念には対応するものがあるはず、――存在。
　そうすると万物は観念だ、ということになる。
■プラトン
　「これらのエイドスは、ちょうどお手本（原型）のようなものとして、自然のうちに不動のあり方をしているのであって、それ以外のものはこれに似たあり方をするもの、コピーとしてあるのだ、ということです。」（同、21頁）
■パルメンデス
　「エイドスをそれ自体で（独立に）存在するとして、もし誰かが規定するなら、どれほどの難問がそこから生ずるか」（同、22～3頁）
　それは不可知だ、という見解が出てくる。
　「事物には自体が自体においてあるようなあり方がある」という命題は、それが人間のうちに（意識のうちに）あるものではなくなる。
　「もし知識の類というようなものが何かそれ自体で存在するとしたならば、それはわれわれのところにある知識よりも、ずっと精確なものである、ということになるだろう。」（同、27～8頁）これは神になってしまって人間には不可知となる。
■後半部への移行
　「例の論理上の逸脱現象はは、これを可視物のうちに、もしくは可視物への関連において観察すべきものではなくで、むしろ言論（論理）によって最もよくとらえられ、エイドスであると人が考えるような、かのものについてこそ考察すべき」（同、31頁）

(4)『パルメニデス』後半部

■哲学の予備練習、あるいは空理空論
　このように述べることで、プラトンはパルメニデスやゼノンの一元論への評価を下しているのではないか。
■結びの言葉
　「それでは、以上のことが言われたとしよう。そしてまた、見たところ、一がもしあるとしても、またあらぬとしても、一と一以外のものとは、自分自身に対する関係と相互の関係において、あらゆる仕方であらゆるものであるとともに、またあらぬのであり、そのように見えるとともに、そうは見えないことになる、ということも。」（同、153頁）
　※このどちらとも言える、という難問にカントはこたえを出した。

(5)ヘーゲルによるカント評価

■アンチノミーは、ゼノンの背理の焼き直し（上、261頁）
■エレア学派とカント
　同一性「意識の内容はたんなる現象にすぎず、真なるものではない」
　差異、エレア学派「感覚的世界そのものは無限に多様な形態をもつ現象世界にすぎず――この側面には真理はふくまれない」
　カント「わたしたちが世界にむかい、外界に思考をむけ、外界にかかわるとき、外界は現象へと転化する。外界に感覚的な内容や知的内容などをもつさまざまな性格を賦与するのは、思考の活動だというのです。わたしたちの認識活動だけが現象であって、世界はそれ自体、絶対的に真実である。わたしたちが世界に思考を適用し、世界とかかわることで世界をだめにする。…カントによれば、わたしたちの思考ないし精神活動がよくないものだということになり――そこには認識を根拠なきものとする、途方もなくへりくだった精神が見られます。」（上、262～3頁）

3）ヘーゲル弁証法の構成と批判

(1)『大論理学』存在論

■「ある」という純粋存在
　これはまだ無規定、空虚な思考作用
　実際には無。
■「ない」純粋無
　完全に空虚、規定や内容の欠如していること
　無は空虚な直観作用および思考作用
■「なる」成
　純粋存在と純粋無は同一のもの。真理態は存在でも無でもなく、それぞれが他方に移行してしまっていること。両者の真理態は、一方が他方のなかで直接に消失するというこの運動・すなわち成である。

(2)存在論の注解

■純粋存在と純粋無の同一性
　これを疑う人たちは、純粋な存在と無ではなく、規定された存在について考えているから。
■端初としての存在
　パルメニデスの存在は無とは区別された存在で、ここから無に進めない。他方規定された存在は他者に依存しているから端緒たりえない。存在は無に等しいという反省によってはじめて思考は前進できる。
■現存するものは運動
　純粋存在が現存しているのではなくて、運動が現存しているのであり、この運動とは成である。
■弁証法
　「われわれが弁証法とよぶのは、こういった端的に分離されているかのようにみえるものが、自己自身によって・またその運動のなかで・相互に移行しあう、より高度な理性的運動である。存在と無とがそれらの統一・すなわち成をそれらの真理態として示すのは、存在と無自身の弁証法的本性である。」（寺沢訳、112頁）
　※アリストテレスの形而上学は、矛盾律の正当性の証明に力をさいている。ヘーゲルは矛盾律の正当性を否定していく弁証法を思考の作用として定式化したことで偉大な仕事をなしとげた。しかし、存在と意識の他者性という見地から、アリストテレスを見直すとどうなるだろうか。今後の課題である。

(3)ヘーゲル存在論の問題点

■ヘーゲルの意識論
　へーゲルは意識を客体と主体とを媒介するもの、客体と主体との関係として捉えている。そしてヘーゲルの弁証法は、この意識の運動を定式化したものであり、ヘーゲルにあっては、意識は客体と主体を媒介するものであるが故に、真理に到達さぜるを得ないものだった。
■存在するものの運動と意識の運動
　ヘーゲルの考えを支持して、意識の運動は捉えられたとしよう。しかし、それが存在するものの運動と同型である、という証明はなされていない。ゼノンの背理は、運動自体は意識では捉えられない、というように読むことが出来る。そうだとすると、ヘーゲルのように「運動があらわれて対象となるとき、まさに現象する矛盾が対象となっている」と言えるかどうか。ヘーゲルは概念における矛盾を解消していく思考の運動を述べたにすぎないのではないのか。
　物理的な運動や化学的変化、さらには生命や社会的労働、こういった存在するものの運動をそれとして思考は捉えられるのか。これらの運動は思考の運動と同型なのか。このことが問われるべき。
■存在と意識の他者性
　存在するものの運動と意識の運動が異型だとすれば、思考は存在するものの運動それ自体をとらえようとするのではなく、それの静止した地点で対象とする他はなくなる。マルクスは生きた労働は無規定だと述べ、対象化された労働を分析した。
■意識の運動から意識形態の分析へ
　意識は運動として見れば、ヘーゲルも言うように、客体と主観を媒介している。しかし、意識を静止したもの、対象化されたものと捉えると、これは存在と意識との関係の形態、つまり意識形態となる。
　存在論は、対象化された意識、つまり意識形態の分析とされることではじめて、思弁的構成から抜け出すことができる。

(4)新たな存在論へ

■意識形態としての「ある」
　対象化された意識としての「ある」はその簡単な形態にあっては、存在するもの一般に規定された意識である。この意識は個別の意識のままで存在一般の化身とされている。
　※つまり、「ある」という対象化された意識（知）の形態から超感性的な現象形態を展開すると、存在者――意識としての「ある」という意識の簡単な形態が得られ、この関係にあっては個別の意識が存在者の化身とされる。
意識形態としての「ある」はヘーゲルの言うように「ある」と「ない」という対立物の統一、二重物ではなく、存在と意識との二重物としてある。

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Author: admin Published: 2006/1/5 Read 2181 times

第2回 存在と意識 2001.5.12

A）「哲学の旅」をふりかえって

1）旅の目的

(1)マルクスの価値形態論研究から

(2)「哲学の旅」第1回 西田哲学、序文（1996年）