テキスト「カント研究序説」

　カントの科学知批判について『ASSB』誌8巻6号の「カント研究序説」に従って報告しました。これを書いて以降、科学的世界観の批判をどのように展開していくかについて色々考えていたのですが、この悩みについても講座で提起し、討論のなかで一定の方向性を出すことができました。

　科学的世界観の批判をしようと考え、科学的世界観について典型的に述べた書物を探しに図書館へいってみました。ところが、科学論のコーナーに並んでいる本のほとんどが科学批判の本でした。科学的世界観は、今日の学生にとっては常識ですから、今更これについて述べようとする人はいないのですね。

　そこでひとつひねってみたのですが、これだけたくさんの科学批判の本がありながら、科学の方は何も打撃を受けていないように思われます。これは何故でしょうか。考えてみれば、科学の権威は、何も科学的世界観が正しいと認められているからではないのですね。むしろ科学技術によってつくりだされたものが、科学の権威の後ろ盾になっているわけです。そうだとすると技術思想の批判を展開した方がよいのではないか、といったことを話してみました。

　問題となったのは、科学が真理の解明というように受けとめられているかどうか、ということで、最近の子供たちは、真理よりも便利と受け止めている、という提起がありました。そうだとすると、科学技術によってつくられたものについての体験が、科学の権威づけに大きな役割を果していることになります。
　この点について議論が進みました。便利とはどういうことでしょうか。ひょっとしてそれは、人間が身体を動かし思考することで実現していた過程が、技術的装置の方にとり込まれていくことで、人間の生命活動が単純なものとなっていくことではないでしょうか。

　技術論の分野では、これまで色々な論争がありましたが、人間にとっての技術体験の意味といった視角からの研究はあったのでしょうか。一寸調べてみようと思います。

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Author: admin Published: 2006/1/5 Read 2072 times

第1回 カントの科学知批判2001.3.10

第1回　カントの科学知批判2001.3.10