　共同主体とは何かということを明確化したい。大昔は個人などなく、共同体が主体であった。資本主義は農民を土地から引き離し、賃労働者にした。そこで、階級が主体として現れた。1960年代の運動では、個々人はプロレタリアートの階級闘争に参加する限りで主体的であり得た。ところが、ベトナム反戦運動を戦ったベ平連が、市民一人一人が主体である、と考え、市民主義運動が始まった。日本の現実の中で自分をプロレタリアートだと考える労働者が少なくなるに従って、市民運動は拡大した。だが、市民運動では、自分の身に直接降り掛かるような個々の課題では戦えるが、全体としてはばらばらであり、また、行政や企業まかせで、自分たちで問題を解決しようという契機がなく、衰退して行った。
　それに代わるものとして協同組合運動が現れた。それは問題解決型の運動であり、生協自体が一つの経済システムとなり、経済的な行為を実行できる主体である。これは新しい主体、即ち、共同主体である。

基本テーマ2：人間と自然

　人間と環境、と言うと、人間が主体で環境が客体と考えられてしまう。本当は、生命がいるから環境がある、或いは、過去の生命が今の環境となっているのである。だから、〈人間と自然〉〈人間と環境〉という問題の立て方自体が誤りに導くことになる。
　実は、言語の問題が鍵なのである。ある対象に言葉で名前を与える行為は自然界を分節化するが、自然界そのものが分節されているわけではない。自然が分節化されているから言葉が分節化しているのだと考えるのは、人間の思い込みなのではないか？　一方で自然の本性に対応する自然科学が、他方で人間の本性に対応する社会科学が、学問体系として成り立っているが、自然の本性とは実は人間が考え出したもの。そういった学問の狂いが問題となる。

「21世紀の社会運動の綱領草案（骨子）」の解説
商品・貨幣の廃絶はいかにして可能か？

　存在と、思考の論理とは違う、ということをわかりやすく理解できるのは、商品の価値形態に於いてである。商品Aと商品Bとが同じ価値であるという時、存在としては関係の中で認知し合っている。それに対して、人間の思考の論理は二つの項を分けて認識する。マルクスが商品の価値形態を分析した時の方法を取り出して、社会関係である言語に代入してみた。
　階級対立をなくすためには商品・貨幣を廃絶しなければならない、というのが共産主義運動の目的であった。その戦術は政治権力の奪取であった。これが間違いだという主張は殆どなかった。だが、「商品からの貨幣の生成が商品所有者の無意識のうちでの本能的共同行為」であるなら、政治という意識的な行為でもって廃絶できるのか？　政治権力を取って社会を変えるという発想自体がおかしいのである。そこで、商品・貨幣を廃絶するために、「本能的共同行為」をしなくてもよい条件を創ることが課題となる。
　商品経済は破綻しつつあり、今や・・・商品に頼らない交易のシステムができて行く時代となっている。個人が主体であるのは市場経済の現実があるからで、共同主体を実現しようとすれば市場を越えた結び付きを模索しなくてはならない。

　1988年にレイドロウが、ヨーロッパでの協同組合運動の危機を乗り越えるために生産協同組合を主張。スペインのバスク地方で1950年代に誕生したモンドラゴンという生産協同組合で試みられたワーカーズ・コレクティブは資本主義に代わりうるシステムの萌芽と考えられる。アリスメンディアリエタ神父が提唱した「資本家企業に負けないだけの投資を行う」という方針は、社会革命の新しい戦術として意味を持っているのではないか？
　更に、アソシエで柄谷行人氏と出会い、消費協同組合の意義を考えるようになった。資本家的企業には働きに行かない、資本家的企業の商品は買わない、というようにして生活できれば素晴らしい――それは難しいけれども。

a) 資本制的外皮の社会化

　「労働の社会化と、その生産手段の集中は、もはやその資本主義的外皮の中に留まることのできない時点に到達する。その時この外皮は粉々に粉砕される。」（『資本論』24）
　この外皮が「粉々に粉砕され」ないのは、資本主義的外皮が拡がっているからだ、と考えることができる。「資本制的外皮の社会化の進展」とは、株式会社の全面化により、労働者でも株を持つことができ、労働者が資本家階級の一員になってしまったこと、世界大恐慌の後に金本位制から管理通貨制へ移行したこと、労使関係に於いて労働組合が認められるようになったこと、という面であり、資本主義が倒れなかったのは、体制を「社会化」して行くことができたからであった。

b) 変動相場制への移行

　マルクス主義の経済学者が一番弱いのは、国際通貨並びに国際金融市場に関してである。1971年の金・ドル交換停止によって資本主義は大混乱するという意見が当時多数派であったのであり、以後も変動相場制に関する科学的研究は為されていないと言えるが、最も参考になるのは、山本栄治と山本孝則の研究である。山本栄治によれば、国際金融市場が民間市場になった。ユーロ・ダラーは、アメリカの国民経済の外にあるが、国際決済に際して重要な役割を演じているのである。ドルが何故国際通貨として機能しているのかという点では、為替媒介通貨として最もよく使われているからである。山本孝則の信用貨幣論では、銀行券自体も預金証書である。兌換制と不換制の違いは、背後にある信用システムの相違に過ぎない。従来国家が管理していた為替システムが、変動相場制に於いては完全に民間に移行し、「社会化」が押し進められた。貨幣取扱業者は口座を私有することで力を持っていたのであったが、オン・ライン・システムによって結び付けられたために私有の意味がなくなった。

c) 信用資本主義の段階規定

　利子生み資本は資本の商品化である。マルクスは、利子生み資本は生産過程の外部にある貨幣資本が生産をより発展させるための力として働くものだ、と考えた。支払決済システムが資本が商品化され得る条件なのであり、資本の直接的生産過程が信用の条件なのではない。債権債務関係があれば信用は成立しうる。信用資本主義の段階では架空資本の役割が大きくなっている。

d) 世界の三層分化

　世界は、先進国/中進国/第三世界と見ていては分類し切れなくなっており、グローバル/国民国家/ローカルという構図になって来ている。グローバルとは単一の資本市場であり、市場を担っているのは銀行、即ち、架空資本の運動。そこで多国籍企業が生産している。
　架空資本の運動が生産を従属させている。多国籍企業の発展のために金融資本があるのではない様な時代となっている。アメリカという国民国家は、アメリカという国民経済の代表でありながら、グローバルの代表である。ローカルとは生命系のエコノミーで、農業などの食品工業は、グローバルには回収され得ない。

　地域通貨LETSの本質は、支払決済システムの共同化、共同管理である。銀行は口座を私有していて、貨幣を自分の利益のために、自己増殖のために、使うのに対して、LETSは、現実の通貨を計算貨幣として使った労働交換のシステムである。上手く使えば商品交換に代わり得るものとなる。協同組合同士が市場で結び付いているだけではグローバルとの競争になってしまうが、LETSによって結び付くことになると、その可能性がある。21世紀にはグローバルと地域通貨が共存する時代になると思われ、その中で協同組合の果たす役割が非常に大きくなる。

（質問に答えて）

表――商品・貨幣・資本を廃絶するという時、マルクス主義の考え方は、先ず政治権力を握って通貨の機能を停止させる、というものであった。問題は、廃絶した後の経済をどうするかということであるが、従来の計画経済では、政治が経済にとって代わる、という形で行われざるを得ない。榎原さんの言った「無意識的共同行為」とは、売れる商品になりさえすれば、貨幣が手に入りさえば、何も考えなくてよい――我々は社会的関係を結んでいるはずなのに――努力の一切は商品になるという努力に過ぎない、ということ。LETSでは、当事者同士で話し合えるという所に人格的関係が社会的関係になって行く。この様な小さな努力が本当の意味での社会生活ではないか？　最もローカルなものが最もグローバルになり得る可能性という逆説をLETSは秘めている。そういう資本主義の破り方はあり得る。

榎原――LETSが市場と対抗し得るかどうかは、衣食住の領域でローカルな買い手がどれだけいるかという所に掛かっている。クローズドな流通の方が市場を通す場合よりも価値が高い、というようになれるかどうか。例えば、神奈川県では四千人くらいのワーカーズ・コレクティブが存在している。そういう土台があれば、上手く行くかも知れない。
　更には、賃労働にならないような働き方を生み出すという問題がある。

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Author: admin Published: 2006/1/5 Read 2572 times

第2次PC講座テープおこし 榎原 均 2000.3.11

この一年間の構想

基本テーマ1：共同主体の形成