　ムフは、アメリカにおける自由主義と共同体論との間の論争を総括する視点として、シュミットの理論を借りてくる。それで、今回は、(1)ムフのシュミット理解はどのようなものか。(2)ムフは論争をどのように総括したか。(3)われわれとしてはシュミットをどう捉えるか。ムフの理解はどの点で誤っているか。(4)ムフの視点を超える試み。民主主義の生成論から国家論への展開へ。テキストは、ムフの第7章。

2）ムフのシュミット理解

■シュミットの三つの論点

第一、自由主義は民主主義を否定し、民主主義は自由主義を否定する。（209頁）
第二、議会制民主主義は二つのまったく異質な政治的原理を結びつけたもの。（211頁）
第三、議会制民主主義は全体国家へと向う。（212頁）

■ムフのシュミット批判

　ムフは、シュミットが攻撃目標を民主主義に対してではなく自由主義においていることを批判し、「自由主義と民主主義の節合」（216頁）をめざす。
　ムフによれば「民主主義は、代表制的なものでなければならないのみならず、同時に個人の権利を保証する制度をも要求する。」（217頁）
「自由と平等はけっして完全に調和することはあり得ないが…このことが自由民主主義の主要な価値を構成する。…　非達成性、不完全性、開放性…によって適合的に」（218頁）なる。

■ムフのシュミット評価

　「友－敵関係」の理論を評価する。
　「政治的なるものの中心主題は、紛争と敵対関係である。…　自由主義的な理念は」この現実に対して盲目になる。（218頁）
　「民主主義をたんに一連の中立的な手続きに限定し、市民を政治的消費者に変え、自由主義が国家の想定された中立性を維持することによって、政治はまったく実質のないものにされてしまった。」（210頁）

3）シュミットをどう捉えるか

■田中浩のシュミット論

　例外状態を前面に押し出す危機の政治学（99頁）主権者とは例外状態において決断を下す者（100頁）「シュミットは統制手段としての権力行使だけに目をうばわれている。彼には政治技術はあるが政治における人間の問題が欠落している。」（101頁）
　英米の国家・社会観は必要悪、という捉え方（個人主義、同質な個人、合理的理性的人間、支配・被支配の利益の調和可能性。権利のための闘争の重要性。→例外状態を想定していない。
　シュミットの敵・味方論、国家にとって、どんな組織が主権をもたらすか。国家・主権者は国家の敵を決定できなくてはならない。自由主義的な多元主義では国家の敵を決定できない。（196頁）

4）カール・シュミット『現代議会主義の精神的地位』

■シュミットの問題意識

　「現代議会主義と関連している民主主義、自由主義、個人主義、合理主義といった諸概念をすべて明瞭に区別することが必要。」（32頁）

■第1章民主主義と議会主義

　19C「西欧文化圏に属するいかなる国家といえども、民主主義的な理念や制度の普及に逆らうことはなかった。」（33頁）

■民主主義とは組織形態である。

　「どのような政治的見解も全て民主主義を利用することが出来るとすると、民主主義とは何らの政治的内容を持つものではなく、単に組織形態であるに過ぎないことが判明するのである。」（35頁）
　「政治的組織形態は、近代の経済のように私法の基礎のうえに構築されると、政治的であることをやめてしまうのである。」（36頁）

　　※シュミットがここで政治的と言っているのは、前近代的政治、身分制国家の政治のこと。
　　　「民主主義的に組織されたいろいろな民族、もしくは、社会的経済的諸集団は、
　　　　抽象的にのみ同一の主体、つまり、国民を構成している。」（37頁）
　　　「民主主義の定義のために一連の同一性が残っている。
　　　下される決断は全て決断した者にとってのみ有効であるべきだ、
　　　　ということが民主主義の本質である。…
　　　　表決で敗れた少数者の意志も実際上は多数者の意志と一致している。」（37頁）

　　※その理由は、民主主義的制度にあっては、所有の問題に干渉しないから。
　　　　その限りで、少数者も多数者と同一なのだ。

■同一性と同一化

　一連の同一性「治者と被治者との同一性、支配者と被支配者との同一性、国家的権威の主体と客体との同一性、国民とその議会における代表との同一性、国家と投票する折りの国民との同一性、国家と法律との同一性、最後に量的なもの（多数）と質的なもの（正しさ）との同一性」（78頁）
「しかしそのような同一性はすべて手で掴みうる現実なのではなく、同一性の承認に基礎ずけられている。
　法律的にも政治的にも社会学的にも肝要なのは、何か真に同等なものではなく、様々な同一化である。」（39頁）
　「現実の同一性と同一化の結果との間には常にある距離が存在する。」（39頁）

■人民の意志についての弁証法

　「少数者といえども人民の真正な意志を体現することが出来る。」（39頁）
　「意思形成の問題において、それ自体止揚されるのが民主主義の運命であるように思われる。」（40頁）少数派の民主主義者が実現した婦人参政権で投票する「婦人たちの多くが民主主義に反した形で投票する。」（40頁）
　「独裁は民主主義の対立物ではない」（41頁）
　「独裁、つまり、未だ存在しない作り出されるべき真正な民主主義の名において、[現存の]民主主義を停止すること」（41頁）

■政治神学

　「すべての権力は人民に由来するという信念は、すべての政府の権力は神に由来すると言う信念と同様」（44頁）
　「民主主義は現代議会主義と言われるものがなくとも存在できるし、議会主義も民主主義がなくても存在できる。独裁は民主主義に決定的に対立するものではなく、民主主義も独裁に決定的に対立するものではない。」（45頁）

■第2章議会主義の諸原理

　シュミットの議会主義とは、議会を現実の至高の叡智の産出の場と見ること。
「議会主義の思想は民主主義的なものではない。」（49頁）

■議会の存在理由

　「議会の存在理由は…色々な対立と意見を妥協させる過程にあり、この過程の結果として正しい国家意志が生ずる。」（49頁）
　「議会にとって本質的なことは、主張と反対主張との公開の討論であり、公開の論争と公開の討論であり、審議すること」（50頁）

■自由主義

　「自由主義を倫理的に一貫した包括的な形而上学的体系と見なすことが必要である。通常論じられるのは、私的な個人の自由な経済競争から、即ち契約の自由、営業の自由から、諸利益の社会的調和と出来る限り大きな富とが自ずから生まれてくる、とする経済的な論理だけである。しかしながら、こういったことはすべて一般的な自由主義原理の一つの適用例に過ぎない。」（50頁）
「言論の自由、出版の自由、集会の自由、討論の自由は有益で合目的な事柄であるばかりでなく、自由主義本来の死活問題である。」（51頁）
　自由主義は「実際上は民主主義が持つ同一性の概念に対立するものを含んでいる。」（52頁）

■議会主義

　「新聞の論説、集会の演説、及び、議会の討論から真実の正しい立法と政策とが生まれてくるということを信じている人は、依然としているではあろう。しかしながら、そのような信仰は、議会自体に対する信仰である。…　19Cに発達してきた議会もまた、これまでの基礎と意味を失った。」（67頁）

■第2版序文の民主主義論

　「あらゆる現実の民主主義は、すべて、平等のものが平等に取り扱われるというだけでなく、その不可避的な経路として、平等でないものは平等には取り扱われないということに拠っている。民主主義に属しているものは必然的に、まず第一は同質性であり、第二には――必要な場合には――異質なものの排除、または殲滅である。」（16頁）
　絶対的平等は民主主義には存在しない。
　「地上の色々な国家が、その公民を他の人間から政治的に区別し、政治的に従属させているとはいえ、何らかの理由から望ましくない人々を、国際法的には従属者、国（内）法的には非本国人扱いとする方式によって、自国から遠ざけておく限り、そのような絶対的な平等は実際どこにも存在しないのである。」（20頁）
　「すべての人間の人間としての平等とは、民主主義ではなくて、特定の種類の自由主義であり、国家形態ではなくて、個人主義的＝人道主義的な道徳ならびに世界観なのである。」（21頁）
　「現代大衆民主主義は、民主主義として、治者と被治者との同一性を実現しようと試み、その途上で、もはや理解することのできない時代後れの制度としての議会に出会ったのである。」（24頁）

5）民主主義の生成論から民主主義国家論へ

■第5分科会レジュメ

　民主主義は市民の自己分裂、二重性から生み出されている、自由と物象的依存あるいは経済的隷属。物象的依存関係にある自己が、自由な自己の化身とされる。

■PC講座第2回レジュメ

　市民の自己関係における同一性（自由）は回り道をして示される。自己関係における民主主義の生成からどのようにして民主国家を導くか。

■権力関係

　市民にあっては自己自身に権力関係が内在している。
　自己と他者。対話の関係も権力関係を内包している。二重性をもつ市民が、他者（同じく二重性をもつ）と関係すると、市民はお互いに他者の存在を自由の化身とすることで、他者を不自由にさせる。
　　　　　自己（自由）←→他者A（依存）
　　　　　　　　　　　←→他者B

■民主国家の成立

　自由の化身を類としての個物として創出する。

　　　　　自己　←→ 国家
　　　　　他者A←→
　　　　　他者B←→

　自己自身に内在する権力関係を、国家に外化することで、自己と他者との同一性を確認する。国家による支配。

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Author: admin Published: 2006/1/5 Read 2412 times

第3回レジュメ ラディカルデモクラシー（2）2000年6月10日

1）シャンタル・ムフのシュミット論