　遺伝子組み換え技術により作物を得るということは「生物」を「たべもの」に変える究極の手段であり、これを認めることは「いのちあるたべもの」を守る最後の砦を明け渡すことになります。遺伝子組み換え技術とは「種の壁」を越えて生命の基本を操作するという「神の領域」に人間が手をつけたということです。

　科学技術の発達は私たち人間の暮らしを便利で豊かなものにしましたがその負の部分については余りにも無頓着だったのではないでしょうか。DDTやPCBは大変有用な物質として使われてきましたが、その結果有害とわかって禁止されても環境に放出されたこれらが分解されたり、無害化するまでには長い年月が必要です。今、私たちは環境ホルモンという物質によって人類の存亡までも脅かされる時代に生きています。原始力開発にいたってはその廃棄物処理についてなんら解決方法をみいだせないままに利用だけしています。

　遺伝子組み換え作物がもたらす環境や生態系への影響を配慮せずに安易な食糧増産を期待することは慎むべきです。組み換え作物自体が雑草化したり、導入遺伝子の環境への拡散、対象害虫以外の虫に及ぼす害、害虫の耐性化など具体的な環境への影響が報告されています。又、いまだ人類には食体験のない組み変え作物を不特定多数の人間が食べ続けるという人体実験を通してはじめて安全性の結果がでる。その時になってやっぱり問題があった、では遅すぎます。

　科学技術にはメリットとデメリットがあるということ。新しい科学技術は予防の原則に基づいて利用されるべきものです。

厚生省の安全性評価の問題点

　遺伝子組み換え作物の安全性は「実質的同等性」という考え方で審査されています。この考え方は、味や形、栄養素などが今までにあった作物と変わらなければ同等と考えることで、組み換えによって新しく作り出された蛋白質が安全であればこの作物は安全だと評価されます。しかしこの安全というのは、開発者自ら、あるいは製造者や輸入業者が提出した書類だけで判断される上、長く食べ続ける食品にこそ大切な慢性毒性や発癌性の検査は含まれていません。さらに遺伝子組み換え作物には、目的の遺伝子をいれるための運び屋の遺伝子や目印遺伝子としての抗生物質耐性遺伝子も入っています。これらの遺伝子がどのような影響を及ぼすかわかりません。アレルギー誘発性を持たないか、新たな有害な不純物を作らないかなどの問題が懸念されます。遺伝子組み換え技術そのものが、まだ未熟な技術です。目的遺伝子を、長いDNAの好きな場所に好きなだけ入れ、好きなように操れるわけではありません。未完成な技術を用いているからこそ、充分な安全性のチェックが必要です。充分な安全性の検査がされたうえ、有用な遺伝子がどこにはめ込まれ、他の遺伝子とどう関係しているかが科学的に解明される必要があります。

組み換え食品に表示を求める運動

　消費者には「知る権利」「選ぶ権利」があります。組み換え食品に表示がなければ、いつ、何を食べたか消費者には分かりません。遺伝子組み換え食品に表示を義務付ける運動に取り組みました。

　全国で3000あるといわれる地方自治体のうち2200を越える地方議会が、表示に関する意見書を採択、国に提出しました。しかしながらこの意見書を国会のどこで審議されたのか、残念ながらこれを受け止める機関、制度はありませんでした。

　表示をするということは、組み換え表示のある物は選ばない、要らないということであり、表示を求める運動は、すなわち遺伝子組み換え食品はいらない運動です。このことでいち早く反応したのが食品流通業界でした。企業イメージの低下を心配したカゴメはいち早く組み換えトマトの開発を断念しましたし、ビール会社はこぞって組み換え原料不使用のビールを売り出しています。農水省は昨年8月、ようやくごく一部の食品に限って表示することを発表しました。

　また国内開発企業6社は遺伝子組み換え作物の開発を凍結すると発表しました。食品産業界は消費者がいらないというものを作っても売れないですし、組み換えフリーの作物の輸入に切り替えています。消費者運動の成果といえます。結果、アメリカでの生産量も頂点から下降する兆しがみえてきました。アメリカの農家は組み換え大豆の相場が下がって困っています。

反対運動のできる生協、できない生協

　遺伝子組み換え作物の出現に対して石けん派生協は反対の立場をあきらかにしました。取り扱い商品への表示を明確にしましたし、原材料からの排除を実行しました。また食品の飼料についてもポストハーベストフリーに加えて遺伝子組み換えフリーのコーンを全農を通じて輸入、切り替えに着手しました。これは、大量生産、大量流通、大量消費を否定し、安価をのみ追求するのでないという、これまでの生協の運動方針があったからこそ実現できたことです。自分たちと生産者の間で、生産と消費に責任を持つ関係がなければ飼料までかえることは不可能です。

　一方で、組合員から組み換え食品に対して不安の声の高まりを表明することで解決しようとした生協もあります。行政に対して、表示義務化の申し入れと輸入作物の分別流通を要求するという人頼みです。

　産直運動と自給率の問題だと思います。自分たちの生協がどれだけ自給できているかによって立場がはっきりと分かれました。

食の安全

　遺伝子組み換え作物の開発の主要メーカーは世界でわずか5社。いずれも巨大・多国籍化学（農薬）メーカーです。日本国内の開発企業も主要なものは5～6社です。わずか数社によって開発された組み換え作物の栽培作付面積は1990年には3990万・。日本の国土面積より広く、日本の輸入高は1920億円となっています。遺伝子組み換え技術は特許により保護されその利益は開発業者に集約されてしまいます。そして食糧生産が、特定の企業に握られてしまう危険性があります。

　食糧の自給率は40％。大豆の自給率はわずか2％の日本は、輸入せざるをえない状況にあります。なぜそうなったのか。目先の安価に走り、長い目で見た国内の農業を守ることをないがしろにしてきた結果です。消費者が安価を追求した結果、海外で安く生産したものを輸入してくることになり、国内の作物との価格差を生じることになります。

　遺伝子組み換え技術は医薬品の開発からはじまったのですが、これが食品へ応用された。食品に応用することで莫大な利益が生じる。食の工業化です。私たちの食生活は簡単便利を望み、冷凍調理品や惣菜加工食品がその多くをしめるようになってきました。平成9年の食品製造業の出荷額をみると素材型が約1割、加工型が9割をしめています、海外で大量に同一品種を作付収穫し、その加工品が工場から大量に流されてきて、スーパーに並べられています。食糧を海外に依存している限り、食糧の安全保障や食品の安全性を私たちは望めません。

遺伝子組み換え作物と環境

　遺伝子組み換え作物には抗生物質耐性遺伝子が入れられており、それを摂取することで腸内微生物が耐性を持つと、病気になったときに抗生物質が効かなくなる事、また家畜の飼料にも組み換え作物が使用されることで同じ事が懸念されます。除草剤耐性が周辺の雑草に伝播し、スーパー雑草ができたり、組み換えに使われるウイルスの遺伝子が、他のウイルスに取り込まれ、新しいウイルスが出来ることもわかっています。自然界では絶対起こりえないことに人間が手を付けることで、環境にとってとんでもないことを起こしてしまう危険性があります。

　生物多様性の問題からの指摘もあります。在来品種への組み換え作物の伝播によって多様性を損なう懸念や殺虫作物が農薬耐性害虫を生み出したり、土壌微生物に影響を及ぼすこと、害虫だけでなく益虫にも影響をあたえることなどが、わかってきています。

　経済優先が招いたのは、農業を軽んじ、自国の自給率の低下と環境汚染を原因とするさまざまな健康被害です。いったん損なわれた生態系や健康はもとにはもどりません。

　これまで厚生省が認めた組み換え作物は、7作物29品種あります。そしていま日本も含め開発中のものに、遺伝子組み換えイネがあります。除草剤耐性や害虫抵抗性といった生産者側のメリットだけのものから、低アレルゲンイネや鉄分・ビタミンA増量イネなど消費者側にメリットのあるものが開発中です。アメリカでは除草剤耐性のコシヒカリが作付けられています。安くておいしい米が輸入されたら日本の農業は崩壊します。主食の米は輸入しない政策と、価格に左右されることなく日本の主食である米を守る運動が求められます。

��ε��

Return to Category | Return To Main Index

Author: admin Published: 2006/1/5 Read 4546 times