　ニュースタート事務局関西（以下ニュースタートと略記）とサポートセンターは別の組織として発足しつつも、サポートセンター準備会発足前から共通の目標をもち、2002年1月以降、私は、ニュースタートと協力して事業に取り組んできました。その後1年半が経過しようとしていますが、この間の協働を通して私が得ているニュースタートのイメージについて述べてみます。もちろん、私は、NPO法人ニュースタートの役員ではありませんので、外部からのニュースタート像を描くことになります。

2）ニュースタート活動の始まり

　ご存知のように、関西におけるニュースタートの活動は、1998年10月に東京の二神氏の講演「大学生の不登校を考える」を西嶋氏が企画したことから始まります。たまたま私も出席しましたのでこの時の様子は覚えています。70名を超える方が出席し、不登校生をもつ親たちや、不登校経験の若者たちも来ていて、相談ごとが持ち込まれたりしました。
　これ一回でやめるわけにはいかない、ということで、その後、西嶋氏らが中心になって、毎月1回のペースで会を開催します。これが後に「大学生の不登校と若者のひきこもりを考える会」と名称変更され、毎月第3土曜日に定例化され、例会としてずっと続けられてきています。例会にはたまにしか参加していませんが、行ってみますと、40～50名の出席者で、都度新しい参加者が10名弱は来られていて、それぞれ報告があり、どうすればいいかが集団で検討されていました。
　活動を続けていくうちに、社会的ひきこもりが深刻な社会問題であることがわかってきました。ひきこもり当事者は、数10万から100万人と推計されていますが、その外側には定職に就くことを拒否しているフリーターが300万人と推計され、さらに親と同居している「パラサイトシングル」が、1000万人で、このような労働力構成は80年代までの日本社会には見られなかったものです。

3）ひきこもりは病気ではない

　このような現実をふまえ、ニュースタートは「ひきこもりは病気ではない」という考え方を打ち出しました。これまでのケースでは、ひきこもりの当事者や家族が、ひきこもりを精神の病と考えて精神科に行き、投薬やカウンセリングを受けることが多く、また、自助グループの中にもカウンセリングの手法を適用している団体が多かった。これに対して、ニュースタートでは、今日の日本の社会の方が病んでおり、この社会病理をどうするか、ということを考えないことには、ひきこもりからの脱出の根本的解決はない、と考えたのでした。このへんの考え方については、HPに論文が沢山でていますので、ここではこれ以上ふれません。

4）活動の多様化とその背景

　さて、例会を続けていきますと、多少元気になって外に出られるようなった若者や、また家族の方々がお互いに助け合うようになり、若者の会が出来て、色々なイベントが企画されるようになりました。また、ニュースタートの内部で、カウンセリングの手法を重視していたグループと、社会病理という考え方からカウンセリングに否定的な西嶋氏との対立があり、お互いに別の団体をつくって活動するようになりました。
　そのあと、西嶋氏は、千葉でやられていたレンタルおねえさん（関西ではニュースタートパートナー）の導入にふみ切り、そして、家から引き出す場として、鍋の会を企画しました。鍋の会が始まったのは2000年の夏でしたが、これが実現する背景について述べておかないと、その後のニュースタートの活動の展開が見えてきません。
　ニュースタートの例会は98年10月から始まりましたが、次の年の2月は、協同組合的な社会の実現を目指し、知識人の協働を呼びかけたアソシエ21という団体の発足の呼びかけが発せられています。400人の呼びかけ人による発足集会が99年4月にもたれたことで、この動きを関西でも作り出そうと考えた私は、西嶋氏にアソシエ21関西の活動をつくっていくことを提案しました。ひきこもりは社会病理にもとづくもので、日本の90年代に形成された社会病理に対する処方箋として、アソシエ21の提起は一つの方針を提起していたからでした。
　こうして1999年11月7日に、アソシエ21関西結成集会を企画することにし、柄谷行人、田畑稔、杉村昌昭、浅田彰、伊藤君雄という豪華なメンバーをパネリストに招いて、200名規模の集会を成功させたのでした。
　アソシエ21関西ではその後内紛があり、私たちはスペースAKという事務所とは関わりなく活動を続けることになりますが、この間の経験で一番大切だったのは、若い人たちが色々な社会運動に登場してきていることを知ることが出来たことです。実際に2000年からは地域通貨の発足が課題となり、キョートレッツの準備のためのワークショップが8月から毎月開かれ、2001年1月には正式発足しています。
　鍋の会の運営は、このように、若者たちの社会運動への参加、という恐らく30年間にわたって日本では見られなかった新しい事態のなかで進められました。アソシエ21やその後に結成されたNAMや、さらには地域通貨にかかわっている若者たちが、ニュースタートの活動にも参加するようになったのです。そこで、若者たちの社会運動とひきこもりの当事者との接点をつけることで、ひきこもり当事者の社会参加を促していく、という考え方が成熟し、2001年春にはフリーターズ・ネットワークの準備が始められます。このフリーターズ・ネットワークは、2001年夏にはHPも出来、研修会やイベントを続け、管理職ユニオンとの交流も出来ました。そして、2002年、ワーカーズ・コレクティブづくりがテーマになって以降は、サポートセンターの活動を生み出す母胎となりました。

5）高槻をモデル地域に

　ニュースタートにとっての新しい動きは、2001年11月に高槻市にドミトリーが開設されたことです。丁度同じ頃に、NPO法人フェルマータが富田駅前にレストラン・フェルマータを開いています。以降、ニュースタートは高槻をモデル地域と定め、人的資源を高槻に集中し始めます。そして、ドミトリーが開設され、入寮者を受け入れた事で、働く場がひろがってきました。NSP，鍋の会、ドミトリーの運営、このような形で広がった働く場をどのようにして運営していくのか。株式会社の限界を知り、雇われて働く事が社会病理の一つの要因と考えているニュースタートが、自分たちの働く場は、雇われて働くのではなく、ワーカーズ・コレクティブ方式が望ましい、と考えたのは自然の成り行きでした。
　2002年1月からのワーカーズ・コレクティブづくりの経過について簡単にまとめておきましょう。
　ニュースタートにはニュースタートサポーター会議が設けられています。これはNPO法人の事務局をサポートすることを目的に組織されたものですが、ニュースタートの活動が、鍋の会、NSP，若者の会、寮の運営と広がるにつれて、サポーター会議の改組が問題になっていました。
　というのは、サポーター会議は働く場を管理することを目的にはしていなかったので、新しい課題に対応していくことには無理があったからでした。そこで、一番事業として事業高のあるNSPのワーカーズ化が考えられたのですが、雇われて働く事とは別の「もう一つの働き方」については誰も経験がありません。色々調べていくと、「もう一つの働き方」を実現するには、単に、ワーカーズ・コレクティブのメンバーだけでなく、その周辺に、この働き方をサポートする大勢の人たちの存在が不可欠だ、ということが判明してきました。
　それで、ワーカーズ・コレクティブサポートセンター（当初は、生産者協同組合サポートセンターと名乗っていました）準備会を発足させることを先行させ、サポーター会議の皆さんにも参加を呼びかけ、2002年6月に準備会を結成しました。そして、この動きのなかで、10月にNSワーカーズの結成という形で、NSPのワーカーズ化が実現されました。

6）活動の転換点

　以上簡単に見てきたこれまでのニュースタートの活動をふりかえって、西嶋氏は、関西の活動と東京の活動を比較し、東京は、はじめから入寮者を中心にし、イベントなどは入寮者しか参加できない仕組みになっているが、最初に集団寮を確保できなかった関西の場合、例会や鍋の会や若者の会といったイベントには誰でも参加できることになっていて、入寮の必然性が感じられないようになっていると述べています。
　また寮も分散していて、収容人員も少ないため、入寮者を土台にした活動をやれる条件が欠けていました。そんなときにNPO法人フェルマータから、よすみ総合福祉住宅への参加の依頼があったのです。
　東京の例を引くまでもなく、ひきこもりの当事者たちの社会参加を促進するためには自分たちで仕事場をつくり出していくことが必要であり、そのためには、集団寮は不可欠です。寮生が10人集まることで、仕事体験塾も具体化するし、また、サポートする側の働く場も出来て、脱出者たちの仕事場をつくれます。関西は活動開始から5年目にしてやっと拠点としての寮を確保できる見通しがたったのです。
　この集団寮の入居者を募り、この寮の周辺にさまざまな仕事場をつくり出していく、このことがいまニュースタートの課題となっていますが、この課題を解決していくためには、この事業をニュースタートの活動の転換点と捉え、メンバーが、これまでの活動と考え方の転換をはかっていくことが必要になっていると思います。
　私自身、サポートセンターにかかわってきた従来の活動と考え方の転換をはかっていきます。

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Author: admin Published: 2006/1/5 Read 5096 times