　「考える」の第6回研修会で、フランシス・ベーコンの「ノヴム・オルガヌム」（世界の大思想6　河出書房）をとりあげてみて、色々気付いたことがありました。レジュメ（フリーターズ・ネットワークHP参照）にもすこし書きましたが、ベーコンは中世の神学を頂点とした学問体系と大学制度を批判したのですが、その際に、ものの考え方そのものを転倒しようとしたのですね。だから、当時の支配的な考え方の根底にあったアリストテレスの「オルガノン」（アリストテレス全集1.2.岩波書店）に代わる新しい思考方法ということで自著に新オルガノンと命名したのでした。

　当時の一般的な思考方法は、抽象的、一般的な命題から現実を解釈しようとするもので、これに対して、ベーコンは具体的な事実と経験から出発して、一歩一歩一般的な命題へと進んでいく方法を提案しようとしているのですが、ベーコン自身が認めているように、これは言うのは簡単ですが、実行することは難しい。そこでベーコンは有名な「イドラ」論で、人々が思い込みに取り付かれて、その思い込みにもとづいて判断してしまっていること、その結果現実が見えなくなっていることを示すことで、いわば迂回して正しい方法を提示しようとしています。
　例えば感心したのは、次のような思い込み（予断）についての考え方です。
「予断は人々の同意を得るだけの力は十分もっている。……ただそれだけでなく、同意を得るためなら、予断の方が解明よりもずっと有力である。」（235頁）
　最近のプラグマティズムの真理論では、社会の多数が同意しているような命題が真理だといった意見もあるようですが、ベーコンは逆に、予断の方が同意を得やすいと考えているのですね。そういえば、ベーコンの信奉者であったヴィーコも次のように述べていました。
　「人間精神の本質は限定されていないものであるため、人間はひとたび未知のところに迷い込むと、自らを万物の尺度とする。この公理から人間に共通する二つの習性が生まれる。一つは〈噂は広まるにつれ大きくなる〉であり、もう一つは〈事実は噂を鎮める〉である。」（世界の名著33巻.114～115頁）

　今日テレビなどのマスコミの登場で、人々は幼少の頃から、思い込み（予断）や噂の威力を見せ付けられ、自分自身の思い込みを自己反省する能力を奪われているように思われます。自分自身の思い込みに気づけよ、これがベーコンから私が読み取ったメッセージでした。

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Author: admin Published: 2006/1/5 Read 3378 times