民主主義は日々生み出されている

2000.4.22　榎原均

（1）文化知の方法

　社会関係をどうつかむか。マルクスが価値形態論解読に用いた方法を抽出して、言語や科学や国家や政治などの他の社会関係に適用する。よく価値観を変える、といわれるが、それだと一人一人異なるが、文化知を創造することで、価値観に知の形態を与えられる。

（2）貨幣は日々生み出されている

　物象化を、物象による人格の意志支配とみる。
『資本論』の交換過程論。商品の本性が無意識のうちでの本能的共同行為を商品所有者にとらせる。（単一の商品金に対して、それぞれが自分の商品を売り出す。）つまり、商品所有者が生産物に価格をつけるとき、その裏面に貨幣の生成があるが、この裏面は意識にはのぼらない。ソ連社会主義の崩壊の要因はここにあった。

（3）言語から科学が日々生み出されている

　言語をつかうと人々は必然的に言語のフェティシズムにとらわれ、言語が分節した対象そのものに本性があると考える。そして、この本性を解明するものとして科学があると考えてしまう。この意味で、科学は言語のフェティシズムの内で成立している。
　商品における物象化と物神性。貨幣の購買力は、他の商品が貨幣に対して売り出されているから生じるのに、逆に、貨幣そのもの、あるいは、日銀券などの代理物に属しているかのように見える。

（4）民主主義は日々生み出されている

　民主主義という言葉にも色々な意味がある。ここでは文化知の立場から、民主主義を政治の超感性的な現象形態と捉える。
　この社会関係における両極は何か。民主主義は政治的自由であるから、支配・隷属の関係の現象ではなく、従って権力関係としては現象しない。
　ではどこに現象しているか。それは市民の自己自身との関係においてである。
　今日の市民は市場(商品交換）やや生産過程で社会的に結びつき合っている。市場では物象的依存関係があり、資本の生産過程では経済的隷属(資本への）の関係がある。にもかかわらず市民は自分自身を自由で平等な人格であると考えている。逆に言えば、自由とは、物象的依存関係や経済的隷属とセットになっている。市民の自己分裂、あるいは市民の二重性。
　人々が権利を意識するとき、この二重性が政治的関係として展開され民主主義が生み出される。
　具体的には、自由で平等な人格として自己Aは、物象的依存関係、あるいは経済的隷属下にある自己Bと関係するのであるが、その際自己Aは自分に等しいものとしての自己Bと関係する。この関係における同一性は政治的自由でしかなく、そして、この関係にあっては自己Aは自己Bを政治的自由の化身とすることで政治的関係を現象させる。その結果、政治的フェティシズムが生まれる。物象的依存関係や経済的隷属が自由と観念されることになる。

（5）協同主体を日々生み出そう

　主体の歴史。(1)共同体の首長が主体、個人の分化はなし。(2)階級が主体、個人は階級闘争に参加する限りで主体性をもつ。(3)市民が主体（1965年～）自立した個人。(4)共同体主義（1970年～）生活丸ごとの共同。(5)主体の死、個人でなく構造が主体。
　今日主体をつくることが課題に。(1)メルッチ、集合的アイデンティティの形成、それに参画することで個人は主体たりうる。(2)ムフ、個人は複数の主体位置をもつ。
　新しい主体を協同主体と名づける。協同とは物象的依存関係にもとづく人格的独立をもたらす市場とは別のシステムで、市民を協同した諸個人に置き換える。ここでは諸個人の自己分裂はない。これが次世代の社会の見取り図だとすると、それに到る道は、まず協同主体を日々生み出すことであることが判明する。
　社会運動の目標は、諸個人の間にしか形成しえない協同主体をつくること。協同主体のルールを明らかにすること。そのことで、もう一つのシステムに新たな可能性が生まれる。アソシエ21とは協同主体を生み出す試みではなかろうか。

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Author: admin Published: 2006/1/5 Read 2908 times