嶺岡T＆T研究所　研究員　渡邊英理

　10月8日、京都で行われたLETSのワークショップに参加した。これは、教育や学術に関する活動を行うNPOのSTUDY UNIONをはじめ、興味関心のある様々な人々が参加して、LETSを来年から京都で始めるための第4回目の準備会にあたる。

　そもそもこの会に参加させていただいたのは、オルタナティブ社会の研究家で、前記の京都LETSを中心的に推し進めている境さんの紹介。各界の一線級の方々に集まってもらって、現在と未来の社会について話していただこうと、T＆T研究所主催で9月に催した「放談会」の席で、境さんに、地域通貨全般、および、京都LETSの話などを伺ったことがきっかけだ。

　自然王国でも「鴨川でもいつか地域通貨をやりたい。」という思いでT＆T研究所主任研究員の田中さんを中心に、地域通貨について以前から少ずつ勉強し、その可能性を探っていた。私個人としては、実際に地域通貨をやっているところを一度見てみたいと、以前から思っていた折、早速参加させてもらった。

　今回のワークショップは、第4回京都 LETSの準備会にあたり、1.LETSゲーム、2.健康食品店「菜の花」の伊藤さんのお話、3.実行委員会の報告、4.今後の予定の流れで、下は、7歳の子供から、上は、60歳ぐらいの男性まで、およそ20名ほどの参加者だった。

　まず、LETSゲーム。これは、実際のLETSさながらに、参加者に相対で取引をしてもらい、各個人の通帳にやり取りされた取引を記帳し、最終的には、参加者全員の口座をコンピューターで管理し公開する。口座は、0から始まり、物やサービスを購入すると、その金額が口座にマイナスで記帳され、逆に物やサービスを販売した人には、プラスでその額が記帳される。

　準備会で行われるLETSゲームは、毎回連続しているので、前回の額は次回の準備会のゲームにそのまま持ち越されるようになっている。事務局で準備するものは、売りたいもの、買いたいものを書いて張り出す紙と相対の取引を記入する通帳になる用紙、口座全体を管理するコンピューター。

　参加者には、事前に売りたい物やサービスを準備しておくように伝えられていて、最初に、自己紹介をかねて、今回、売りたいもの、買いたいものを発表する。自己紹介が終わると、売りたいもの、買いたいものを書いた紙を壁に張り出し、それを見て、欲しいサービスや商品を探して、その持ち主と相対で交渉して、取引が始まる。

　私は、家にある古本、古雑誌、それから、自然王国産の野菜、山菜などを売りたいもののリストにあげた。私は、手ぶらで参加したが、実際に、売りたいものを、その場に持ってきて、売っている人も多く、本や、雑貨、食べ物など、並んで、とても賑やかな雰囲気だった。買いたいものには、私は、「マッサージ」（ひどい肩こりなので）と、手持ち無沙汰な時間をなぐさめるための「ギター」を所望した。

　最初の買い物は、「マッサージ」。小学4年生の那里ちゃんに15分60ポイントで肩を揉んでもらった。これは、快適、大満足のサービスだった。こうして、子供でも自然に参加できるのが、LETSのいいところ。

　もう一つの買いたいものリストの「ギター」は、前回の会では出ていたらしいが、残念ながら売れてしまったらしい。しかし、那里ちゃんのお母さんからは、古いフォークギターとエレキギターの申し出、STUDY UNIONの関さんからは、「ギターじゃないけれど……」と二段式ハーモニカを提案してもらった。どちらもペンディングさせていただいているが、好意がとても嬉しかった。

　また、私の売りたいものリストの「野菜・山菜」を見て、大学生の山川さんが声をかけてくれた。めぼしい野菜、山菜がなかったので、「そういえば、庭の栗の実が」と話してみたら、料理好きの山川さん、「ペーストにするので、ほしい。」と言う。2～3キロで、200ポイント、着払いで商談成立した。また、私の古本、雑誌の中でいい料理の本があったら、と、こちらも次回、見繕って紹介することにした。

　最後に、時間切れで取引できなかった京都LETSコーディネーター船場さんのダンスツアーのチケットは、後日メールでやり取りさせてもらうことにした。

　STUDY UNIONの上山さんは、現在引きこもりの子供たちの問題に関して活動されている。そうした子供たちの手を借りての援農の話で盛り上がり、ぜひ、一度自然王国に遊びにきて欲しいと、お誘いした。

　上山さんとは、いろいろお話をさせてもらったが、中でも印象的だったのは、「普通、銀行で口座がマイナスになると、借金していると思って、気が重くなるのだけれど、LETSでは、口座がマイナスになっても、そんな気持ちにならない。むしろ、自分は、どんなことで貢献できるか、知恵を絞って、とても楽しみな気持ちになる。」という話。確かに、実際参加してLETSのやり取りをしてみると、初めて会った人同士でも、商品やサービスの売買という相対の取引の中で、自然と打ち解け、相手の懐に入っていく。そこには、もう一過性の出会いじゃない、仲間意識ができるから不思議だ。「自分も何かしたい。」という心の有様が自然に生まれてくる。境さんの言うところの「地域作り、地域作りと声高に言わなくても、それをやることで、自然とコミュニティができてしまう、うまいシステム」というのは、きっとこのことだろう。

　また、上山さんとの話の中で、「地域通貨には、貨幣を発行するタイプのものと、貨幣は発行せずに、取引を通帳に記帳していくタイプ（交換リングタイプ）の2種類あるが、僕は直感的だけど、後者の方が面白いと思う。」という意見があったが、これには私も同感だ。実際の相対の取引がもれなく要求され、自分のやり取りが仔細に実感できる交換リングタイプの方が面白いかもしれない、と、実際にLETSゲームに参加して感じた。

　健康食品店「菜の花」の伊藤さんのお話では、魅力的な商品を実際に持つ、商店や個人事業主にLETSに入ってきてもらう場合の問題点に参加者の関心が集中した。例えば、伊藤さんのお店にLETSに入ってもらうと、おそらく、大勢のLETSを使うお客が伊藤さんのお店に集中するだろう。そうして溜まった大量のLETSを伊藤さんはどこで使えばいいのだろうか。それは、例えば、問屋さんや取引のある農家への支払い、雇ったアルバイトへの給料の支払いが、LETSでできるとか、その他、他の商店で使えるとか、でなければ、伊藤さんは困ってしまうだろう。日本銀行券との併用などで、うまく調整するにしても、やはり本当の意味でLETSが循環するには、多様な物やサービスが揃っていなければ難しいのかもしれない。

　実行委員会からの報告では、来年一月からの開始に向けて、スタート日までにやるべき事が提案され、その場でいくつかの点ついては、議論された。例えば、入会金の問題や、取引手数料の問題。京都LETSでは、英国マンチェスターの例を参考に、入会金、レジ手数料を設定する予定だ。

　入会金は当座の事務局費に当てられる。当初実行委員会から1500円という案が提案されていたが、準備会の参加者から高いという声があがり、「最初のハードルは低くすべき。」という意見が大勢を占め、1000円に値下げされた。また、レジ手数料は、全員の口座を管理するのに、コンピューターに入力しデータを管理する作業が必要で、ここにかかるマンパワーへの報酬に当てる。これについては、当初、取引の額の高低に関わらず、15円から20円の額を一律掛けるという提案だったが、こちらについても、一律にするのか、あるいは、額によって手数料を変えるのか、再度検討することになった。

　今後の予定は、10月21日に京都のバザールカフェで第5回LETS準備会、京大11月祭への参加、ひきこもりの若者たちとのLETSゲームの交流会が予定されている。

　私自身も、自分のスケジュールを睨みながら、11月に再び訪れたい、と思いながら、帰路に着いた。

鴨川自然王国

　　　　〒296-0000 千葉県鴨川市大山平塚

　　　　TEL 0470-99-9011 0470-98-1011

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Author: admin Published: 2006/11/27 Read 2723 times

地域通貨研究1 京都LETSワークショップに参加して

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