　「意識一般とは、自我の或る対象――内的であれ、外的であれ――への関係である。我々の知識は、一方では、我々が感性的知覚を通して認識するところの諸々の対象をもつが、しかしまた一方では、精神そのものの中にその根拠をもつところの諸々の対象をもっている。前者は、感性界を形成するものであり、後者は、叡智界を形成する。法的概念、倫理的概念、宗教的概念は、いづれも後者に属す。」（14～5頁）

※ヘーゲルによれば、意識とは、自我の或る対象への関係だが、その対象には外的なもの、つまり、感性界と内的なもの（精神）叡智界とがあるという。自我の対象を感覚的なものと精神的なものとの二種類にわけることは、通常の考え方であるが、ヘーゲルの独自性は、意識を自我の二種類の対象への関係として捉えたところにあり、ここに弁証法の起点があった。

2）意識と弁証法、あるいは精神現象学

　「常識（日常の意識）は、ただそれが知ろうとする相手の対象だけを表象する（考える）が、しかし同時に、自分を、すなわち知識そのものを表象しない。しかし知識の中にある全体は、対象だけでなく、知るところの自我でもあり、自我と対象との相互の関係でもあり、つまり意識である。」（124頁）
　「哲学においては、知識の規定は、ただ一方的に物の規定だとは見られない。むしろ物の規定と物とを共に含むところの知識が問題である。言い換えると、知識の客観的規定としてのみでなく、また主観的規定とも見られる。また、むしろ客観と主観との相互の関係の特定の形態だとも言える。」（124頁）

※常識は知識の中に含まれている対象のことしか考えていないが、しかし知識の中には、対象だけでなく、それを知る自我もあり、自我と対象との相互関係がある。この相互関係とは、意識に他ならないが、この意識は、、客観と主観との相互関係の特定の形態であると見るヘーゲルにとっては、意識とは、現象形態であり、そしてこの相互関係の措定のうちに弁証法はすでに起動している。

3）実在論と観念論への両刀批判

※ヘーゲルは、自らの弁証法を起動するに際して、実在論と観念論の立場を共に退けている。ヘーゲルにとっての実在論とは、知識の中にある物と物の規定とは、全く意識の外にあって、意識に対して出来合いのものとして与えられたものと考える立場であり、他方、観念論とは、知識にとって意識は本質的なものであるから、この知識という自分の世界を自分自身で定立し、その世界の諸規定を自分（意識）で作り出し、また、与えていくことが可能と考える立場である。これら双方とは別のヘーゲルの立場は、次のように述べられている。
　「意識は一般に、外的または内的な対象の知識であって、対象が精神のはたらきの加わることなしに意識に現われるか、それとも精神によって作り出されるかは問題でない。その意識の諸規定は精神自身に帰せられる限り、精神は精神の活動の面から考察される。」（126頁）
　この考え方は、「物の一般的な諸規定は、一般にただ客観の主観への特定の関係と見なければならない。」（125頁）という見地から、主観を精神と捉え、そして、その精神を、存在する対象へと本質的に関係することで現象していくものと見なす見方にもとづいている。この立場から、ヘーゲルは精神の現象の仕方を、精神の活動、つまり運動として捉えることで、弁証法を展開していく。

4）感覚的意識と論理学緒論

　「単純な感性的意識は、外的対象についての直接的確実性である。このような直接性に対する表現は、対象が『ある』ということであり、それも『これ』、時間的には『今』、空間的には『此所』ということであって、他のすべての対象と全く区別されて、全くそれ自身において規定されているということである。」（129～30頁）

※ヘーゲルの感性的意識論の特徴は、この意識にとっての外的対象についての最初の直接的規定、今、ここに、これがある、という事柄を抽象的で無内容なものと捉えている点である。というのも「今」も「ここ」もすぐに消え失せる性質のものだけれども、しかし同時に、「今」も「ここ」も存続していて、この存続している方は、普遍的な「今」であり「ここ」であるからだ。だから、最初の直接的規定である「今」も実は意識の内にある多くの規定の総括であり、本当に存在するものは、この普遍的なものの方だ、というのである。この論理展開は、意識について一般的に論じた論理学の緒論の内容と一致している。
　でも、アドルノやレヴィナスなら、意識が捉えた「今」が対象の中から排除してしまった「あるもの」や、思考が対象を自分に同一化することで獲得した「今」とは絶対的他者としてある対象の方を本当に存在するものとみなしている、ということを指摘して、次に進むことにしよう。

5）知覚と有論

※ヘーゲルは、知覚が感性的なものを対象とする場合、それを、「感性的なものが直接的にあるかぎりにおいてではなくて、それが同時に一般的なものであるかぎりにおいてである。知覚は、感性的規定と反省規定との混成である」（131頁）と捉えている。だからこの意識の対象はいろいろの特性をもった物であるが、この物の規定は、一つの物に属していながら、しかし他のものへの関係によっても規定されているということにもとづいて、最初の弁証法が次のように展開される。
　「諸々の特性が本質的に媒介されたものであるかぎり、それらは自分の存在根拠を他者の中にもち、従って、変化する（他者になる）ものである。特性は、偶有性にすぎない。しかし物は、諸々の特性から成り、特性によって区別されるものだから、特性の変化によって解消する。つまり、物は生成と消滅の交替である。
　この変化において或る物は自分を止揚し、他物になるが、同様に他物もまた消滅するものである。しかし、他物の他物（他者の他者）また可変体の変化は恒常的なものの生成であり、即且向自的に（それ自身で）存在するものの生成であり、内的なものの生成である。」（132～3頁）

※ヘーゲル弁証法というと、よく正－反－合（止揚）の図式で説明される。これはつまりは、物を生成と消滅の交替と見なすことから導かれてくる。もう一つは、対立物の統一とも説明される。対立物とは矛盾するものだから、それが統一（同一）されている、ということは、矛盾律に反するものであり、従って、弁証法は矛盾律を破る矛盾の論理学だ、とも言われている。
　でも、正－反－合とか、対立物の統一といっても、ヘーゲルの弁証法の根本をつかんだことにはならない。もっと詳しく、差異－対立－矛盾－止揚と言ってみたり、否定の否定と言ってみても同じことである。というのも、これらの規定は、弁証法の運動を外から見ているからだ。
　かって、藤本進治は、内的矛盾という概念で、弁証法についての外的な説明に批判を試みたが、藤本の場合の内的矛盾は、内容と形式との矛盾だったように思う。例えば、プロレタリアートを主観的生産力と対象的労働条件からの分離、というように規定したことのように。
　しかし、ヘーゲルの弁証法は先の引用に見られるように、自己と他者との間の関係を形づくっているものを解こうとしている。

6）悟性と本質論

※自己と他者との関係といっても、ヘーゲルはこれを色々なレベルに設定している。ある物を主語にとれば、それが自己であり、他の物は、他者となる。あるいは、自我と対象を措定すれば、自我が自己で、対象は他者である。さらに思考を自己とすれば、対象は他者となる。等々。

　「対象の規定はいまや（a）全く偶有的な面をもつが、しかし（b）また本質性、恒常的な面をもつ、ということである。対象が意識に対して後者の規定をもつとき、意識は悟性である。そこで悟性にとっては、知覚にあらわれる諸々の物は単に現象と見られ、悟性は、物の内的なものを考察する。
　物の内的なものとは、物のもつ性質の中で、一面では現象から自由なものである。すなわちそれは、自分自身に対して外的な面を形成しているところの物の多様性から自由なものである。しかし他面では、物のこの内的なものはその概念（本質）によって他の諸々の物に関係している。それ故に、内的なものは、（1）単純な力であって、その力は定在、すなわち発現に移行する。」（133～4頁）

※対立物の統一は、毛沢東流に言うなら、「一が分かれて二になる」ということだ。対象の規定としての知は、偶有的なものと恒常的なもの、つまり現象と悟性とに分けられる。そして、ヘーゲルは、対象の恒常的なものを物の内面とみなし、そこに力と発現とを見ている。力についてのヘーゲルの展開はよくわからないので、物の内面についての議論の方へ移る。
　物の内的なものである概念が意識に自覚されると、意識は意識自身と関係するようになる。「意識はなるほどやはり対象をもち、他者に関係はするが、しかしその他者は、他者であって、直ぐにまた他者でないような他者である。すなわち、意識は自分自身を対象とするのである。」（136頁）
　こうしてヘーゲルは、外的対象を意識に解消することに成功している。でもカントが言うように、物の内的なもの、概念とは、悟性の法則が自然にもあてはまると悟性が考えて、自分に似せて作り出したものであるから、ヘーゲルがここでやっていることは、悟性がつくり、そして対象にあてはめた概念なるものとしての物の内面について言えることで、これが果して対象としての物の内面かどうかはわからない。

　「或いはこれを端的に言えば、物の内的なものは物の思想または概念である。意識は内的なものを対象とすることによって、思想を、また同様に、自分自身の反省または形式を、要するに自分を対象とするのである。」（137頁）

※物の思想、または概念は、悟性（理性）がつくったもので、理性がそれを物の内面だと錯覚しているものに他ならない。この見地から、ヘーゲルをひっくりかえすとどうなるか。

（B）ヘーゲル弁証法の転倒

1）ヘーゲル弁証法転倒の方法

　マルクス　頭で立っている。これをひっくり返す。これが課題。

(1)主語と述語のとりかえ

　ヘーゲル「物の内的なものは、物の思想または概念である。」→「物の思想または概念は、物の内的なものである。」

※ヘーゲルの場合、内的なものは意識であることになるが、転倒すると、物についての意識が物の内的なものとしてあらねばならない、という思想に変化している。内的なものが意識であれば、これを勝手に思考していけばよいことになるが、転倒すれば、物の思想は思考が規定するのではなく、逆に思考が物に規定されることが鮮明となる。

(2)意識を対象に、対象を意識にとりかえる

　ヘーゲル「有は単純な内容のない直接性である。その対立は純粋無であり、両者の統一は成である。無から有への移行は生起であり、その逆は消滅である。（162頁）」
→ 「有という意識は単純な内容のない直接性である。その対立は対象である（意識にとっては無）、両者の統一は成（思考と存在との統一）である。対象から意識への移行は生起（思考の生成）であり、その道は消滅（思考の険証）である。」
　ヘーゲル「定有は生成した、従って規定された有である。それは同時に他物への関係をもつ有であり、それ故に自分の非有への関係をもつ有である。」（162頁）
→ 「生成された意識は定有である。それは同時に他の意識と関係をもつ有という意識であり、非有という意識と関係をもつ意識である。」
　ヘーゲル「意識一般とは、自我の或る対象――内的であれ、外的であれ、――への関係である。」（14頁）
→ 「対象一般とは、対象のある自我――内的であれ、外的であれ、――への関係である。」

※弁証法を対立物の統一というとき、ヘーゲルにあっては、対立物はともに思考であった。思考自体がある規定から別の規定へ移行し、そしてその移行していく総体を明らかにしていくことが論理学の課題とされている。
　主語と述語のとりかえ、意識と対象（存在）とのとりかえから出てくるものは、思考は対象を規定するのではなくて、（カントが発見した超越論的仮象にあざむかれているので、思考は対象を規定すると思い込んでいる）対象の方に規定されているのである。さらに、ヘーゲルが対象（実は対象についての規定だが）と想定しているところの意識に、そして、それに対立させられている概念を対象に、それぞれ置きかえると、対立物の統一とは、存在と思考との統一としてあることがわかる。
　ヘーゲルにあっては、意識一般とは、自我の或る対象への関係であったが、これを逆に、対象一般が、対象の或る自我への関係と読めば、そこから出てくる結論に、意識は、対象（存在）と自我の思考との二重物だということになる。

(3)カント超越論的仮象論を生かす

　ヘーゲル「本質とは、措定された概念としての概念である。本質においては諸規定は相対的でしかなく、いまだ端的に自己へと反照したものとしてあるのではない。だから概念は、いまだ向自的なものとしてあるのではない。本質とは、自己自身の否定性によって自己を媒介する有であるから、それが自己自身への関係であるのは、それが他者への関係であるときだけである。しかしこの他者なるものは、直接的には、存在者としてではなくて、一つの措定されたもの、媒介されたものとしてあるのである。――有が消滅してしまったわけではない。まず第一に、本質は、自己自身への単純な関係として、有である。次に、しかし直接的なものであるという有の一面的な規定に従えば、有は単に否定的な或るものへと、つまり、一つの照り返し（仮象）へと引き下げ措定されている。――だから本質は、自己自身へと照り返すこととしての有である。」（『エンチクロペディー』河出書房版、126頁）

※ヘーゲルにあっては、本質とは概念だと言われてはいるが、しかしそれは実は対象の本質のことでもある。つまり、概念は思考であると同時に対象についての規定でもあり、この後者からすれば、対象とみられている。
　だから本質を、ある質をもった対象、つまりは、有と見ると、これは束の間のもので、無に移行していくものだから、概念としての本質にとっては、仮象であり、こうしてここでは、有は、仮象との関係をもった概念、つまり自分自身に反照している一つの関係といっても、概念と概念との関係としてあらわれている。
　ヘーゲルにとっては、この概念は即対象でもあるのだが、カントによれば、対象についての概念は、対象に属するものではなく、人間の悟性に属する悟性の法則だった。この見地からすれば、ヘーゲルのように、思考のうちにとり込まれた対象についての規定（対象についての概念）を対象そのものと考え、そして、思考そのものとしての概念と、対象についての概念との関係を想定し、その反照の関係を述べてみたところで、それは決して対象に属する論理を展開したことにはならない。

(4)概念の弁証法

※とまれヘーゲルは、有、つまり思考のうちにとり込まれた対象についての規定と思考との関係を措定し、そこに矛盾律を破る運動法則を展開したことで、弁証法の論理を述べた。
　「本質は区別を、措定されたものとしてのみ含んでいるので、本質は、それの諸規定には有が欠けているという一面性をもっている。本質は、抽象的肯定としての、自己を自己へと関係させる絶対的否定性であり、単純な自己内有である。この同一性の形式、自己への反照の形式は、有の直接性の代わりに登場している。両者はしかし自己への関係という同じ抽象物である。」（第二版、127頁）
　「この同一性は有からやってくるものとして、さしあたりは有の諸規定だけをまとって、そして、或る外的なものへと関係するという形で有に関係して現われる。この外的なもの（有）が本質から切り離して受け取られると、それが非本質的なものと呼ばれる。しかし本質は、有へのそれの否定的関係によってのみ、自己自身の中にある。したがって、本質は同時に観念的で、照り返したるにすぎぬ有によって、同時に一つの自立的な外的なものによって媒介されるという形で媒介されている。したがって、本質の領域は、さしあたり抽象的である自己内有によって、このような――いまだ不完全な――直接性と媒介との結合である。この領域においてはすべては、同時にそれを超え出て行っているという形で規定されている。――反照の有として、つまり自分の中で或る他者が照り返し、或る他者の中で自分が照り返すような有として、措定されている。――だからこの領域は、有の領域では単に自体的であるにすぎなかった矛盾が、措定された矛盾になっているような領域でもある。」（第二版、127頁）

※このように、ヘーゲルは、A＝Aという同一律を、直接的なものと媒介されたものとの関係、反照の形式と捉えている。だから、同一律は、ハイデガーが言うようなトートロジーではなく、自己の内に区別を含み、自己自身へと関係させる否定性の運動としてあることになる。ヘーゲルによれば、いわゆる同一律は、抽象的悟性の法則以外の何ものでもなく、この命題が主語と述語の区別をもつことで、すでにこの法則に矛盾しており、なおかつ、人間の思考はこの同一律とは反対のものを法則としていることになる。（129頁）
　弁証法とは、矛盾律の否定であるが、矛盾律とはこの同一律の言いかえにすぎない。（AがAであると同時にAでないことはできない。）だから、矛盾律の否定は、同一律の否定でもあった。

2）社会の弁証法を求めて

(1)ヴィーコ『学問の方法』（岩波文庫）

　「われわれが幾何学的ことがらを証明するのは、われわれが（それらを）作っているからである。もしかりに、われわれが自然学的ことがらを証明できるとしたら、われわれは（それらを）作っていることになってしまうであろう。」（40～1頁）

(2)自然と社会

　自然は人間がつくったものではない。但しこれに加工して人工的自然（第2の自然）をつくることはできる。人間の活動も自然である。
　社会は人間がつくったものであるが、意図的につくったものではない。無意識の領域が大きい。
意識と言語も人間がつくったものではあるが、意図的につくったものではない。

(3)主体と客体

　近代ブルジョア社会の形成と個人の生成。主体と客体という区分の成立。近代科学の成立。科学的認識論の成立。自然についての素朴な唯物論と精神界についての観念論との結びつき。

(4)批判哲学

　カントによる超越論的仮象論。科学的認識の限界を示す。

(5)概念の弁証法

　ヘーゲルは実体を主体と捉え、意識を自我の内と外との関係と捉えることで、思考の運動を概念の弁証法として展開した。

(6)社会の弁証法

　マルクスは社会を主体としての人間がつくり出したもの（但し、意図的につくり出したものではない）と捉え、社会の経済的関係がどのように生産されているかを明らかにした。

(7)ヘーゲルとマルクスのちがい

　社会の弁証法、というと、従来はヘーゲルの弁証法を社会にどのように適用するか、という見地からのものだった。いま問われているのは、ヘーゲルの概念の弁証法と、社会の弁証法とが異形である、ということだ。

3）関係の論理を切り口に

(1)ヘーゲルの関係の論理

　ヘーゲルが本質論で展開している関係の論理は、部分と全体、内的なものと外的なもの、といったことで、これはやがて現実性へと止揚される。そして、実体性の関係、因果関係、交互作用、と展開されていく。
　この弁証法は、主体の意識内部における関係の論理であって、主体と主体との関係が措定されてはいない。ヘーゲルが主体と主体との関係について論じているのは、精神現象学の主と奴、及び法哲学における市民社会論（諸人格の欲求の体系）であるが、主と奴は支配、隷属の関係であり、市民社会論は国家を導く媒介でしかない。

(2)マルクスの価値形態論

　これはレヴィナスの「外の主体」という言葉を借りれば、外の主体相互の関係である。ここで「外」というのは思考の外、という意味だ。
　レヴィナスにとっての市民社会とは、諸人格の欲求の体系として、国家に止揚されるものではなく、唯一性をもった諸個人がお互いに「顔」として倫理的に関係することで成立しているものだ。マルクスにとっては、価値形態とは主体が労働によって対象化したものが自立的に関係を取り結んでいる世界である。

(3)絶対的他者相互の関係

　思考の論理に従えば、絶対的他者とは思考にとって及ばないもののことであり、思考とは関係のないものとなる他はない。唯一性をもった個人によって形成される社会も、対象化された労働が自立的な関係を取り結ぶ価値形態論も、絶対的他者の関係とみなせないか。絶対的他者の関係とは、思考の論理では捉えられないから、人間の思考にとってそれは存在しないもののように思われるが、しかしその種のものは現実には多々存在しているのではなかろうか。

4）絶対的他者相互の関係としての意識

(1)ヘーゲルの概念の弁証法

　ヘーゲルは意識を自我の対象に対する関係と捉えることで、意識を運動として展開することに成功し、弁証法を発見し叙述することが出来た。

(2)へーゲル弁証法の転倒

　ヘーゲル弁証法の転倒は、たんに、意識を存在と思考の二重物と捉え、これを意識形態として対象化された形態において捉えることで成し遂げられる。

(3)転倒された弁証法

　意識を存在と思考との関係とみることは、これを絶対的他者相互の関係としてみることになる。
同一性とは関係のうちで形成されるもので、対立物の統一は第三の質をつくり出す。この第三の質とは社会的意識であり、意識を存在と思考まで社会的意識形態という第三の質をもたざるを得ないことが判明する。

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Author: admin Published: 2006/1/5 Read 2381 times

第5回 ヘーゲル弁証法の転倒 2001.11.10

A）ヘーゲル『哲学入門』から、ヘーゲル弁証法の特徴

1）意識論