　価値形態論抜きに、社会性に接近できるか？
　流行しているもの、公共圏
　　ハーバーマス、アレント
　　　現実の諸問題をうまく解決できる公共圏が出来ればいいなあ。
　　　願望にしかなっていない。
　言語論から社会性への接近
　　サビア、ウオーフ
　記号の社会性
　　ソシュール
　　　ソシュールの理論は言語のフェティシズム批判に活かせる。
　社会形成論
　　ブーバー、レヴィナス
　　　レヴィナスのいう倫理性とは「政治」を含む社会形成論として
　　　捉えられるべき、文化知の萌芽。
　対話からコミュニケーション
　　バフチン

■現代思想の切り方

　商品価値と言語論を切り口に切断してみること。
　存在（客体）―― 意識 ――　現存在（主体）この三項が意識でとらえられた形式＝フェティシズム
　両極のみが意識の外にあり、両極の関係のありようが形成するものを、意識は意識だけが本源的で、両極を意識の内部にあるものとして捉えざるをえないが、しかし、外に残っているものとしての両極について否定しきれない。言葉にならない存在、これをどう捉えるか。

（A）バフチンの記号論

1）記号とは何か（エコ『記号論入門』　而立書房）

■コミュニケーション過程

　コミュニケーション過程の要素としての記号
　メッセージは記号に等しい
　共通のコード　記号は一要素であるだけでなく、意味作用の過程に参加する　―― 実勢。

■意味作用の過程の要素としての記号

　　　　　　　　　シニフィエ
　　　　シニフィアン △ 指向対象

■記号の哲学的諸問題

　パースの提起を受けて「人間はその言語である。なぜなら文化は記号体系以外の何物でもないからだ、と。人は話していると信じているときでさえ、実は彼が用いるもろもろの記号を支配している規則によって話されているのだ。これらの記号の規則を知るということは、まさしく社会を知ることであるし、それはまた、かっては考えるモノと名づけられていた、記号的被現実性の体系　――　われわれを精神として構築しているもの　―― を知ることである。」（228頁）

2）バフチンらの言語論（『言語と文化の記号論』新時代社）

■意識

「意識は、組織された共同体内での社会的なコミュニケーションの過程で生まれる記号としての事物に媒介されて、はじめて形成され、客観的に実在するようになるものです。個人の意識は、記号によって養われ、記号によって成長し、自らの裡に記号の論理と記号の規則性とを映しているのです。意識の論理とは、どこまでもイデオロギー送受のコミュニケーションの論理です。共同体内での記号による相互作用（コミュニケーション）の論理です。意識から、そのイデオロギー記号たる内容を取り去るなら、意識の裡に残るものは何もないでしょう。」（21頁）

■物象化

「記号の現実の在り方は、この社会的なコミュニケーションによって余すところなく規定されております。なぜなら、記号という存在は、このコミュニケーションが物象化された結果にほかならないからです。」（23頁）
「日常生活のコミュニケーションの媒体となっているのが、もっぱら言葉なのだということ」（25頁）

■経験

「経験なるものは、記号の助けを借りて表現することができるだけではない。経験は、それを外部に表現する場合以外でも、経験する当人自身にとっても、記号という媒体を介することによってはじめて、存在し、現に存在してもいるものだ、という点です。」（53頁）

■個人主義的な主観主義

「個人の発語産出の行為を言語の根本だとみなしている。さらに個人の心理が言語現象の源泉だとみなしています。」（97頁）
　言語を表現と捉える、意味を付与する創造行為。

■抽象的な客観主義

　学ぶ対象を「言語の音声形式・文法形式・語るい形式の体系としての言語の体系」（124頁）におく。

■抽象的な客観主義への批判

　言語を規範として自己同一な諸形態の体系、つまり言語は、直接なにものにも媒介されずに実在している（138頁）と考えられているが「唯一人として言語が客観的な体系として実在するには不可欠な（語る主体の意識の）働きについて、はっきりした的確な理解に到達している者はおりません。」（139頁）
「語る主体の意識は、規範として自己同一な諸形態の体系という形で言語を操作するわけではありません。」（140頁）
　語る主体にとって言語とはどのようなものか、という問題意識から、客観主義を批判している。聞き手にとっても自己同一性ではなくて、可変性が問題となる。（142頁）
「語る主体の言語意識は、実は言語そのものの形式とも、言語そのものとも、直接、全く何らの係わりもない」（145～6頁）
「私たちは実際には、言葉そのものを発したり聴いたりすることは決してありません。私たちが発し、私たちが聴くのは、真実か虚構か、善きことか悪しきことか、重要なことかくだらないことか、分かることか分からぬことか、などです。」（146頁）
「規範として自己同一的な諸形態の体系としての言語なるものは、それを用いて語る主体の意識にとって言語がある実際の在り方ではない」（146頁）
　抽象化の仕方が悪い、という批判

3）バフチンらのコミュニケーション論

■個人主義的な主観主義の批判

　個人の内にあるものが、外に表現される、という考え方
　内的なものと外的なものとの区別づけがダメ。
「内的記号という媒体のうちに存在があるのではない。その逆なのです。表現こそが体験を組織しているのです。」（186頁）
「発話とは、実際、二つの面をもった行為です。それは誰の発話であるかという面と、誰にむけられた発話であるかという面と、この二つの面から規定されているのです。発話は、それ自体が話し手と聞き手との相互関係から生まれた所産なのです。……発話・言葉は、話し手と聞き手とが共有する共通の領域です。」（188頁）
　状況が発話を規定する。
「あらゆる発話を組織し、あらゆる表現を組織する中心点は内部にではなく、外部にあるからです。つまり個をとりまく社会的な状況の裡にあるからです。」（205頁）

■対話論

「言語活動（言語・発話）の真の現実とは、言語形態の抽象的な体系でもなければ、モノローグとしての発話でもありません。ましてや、モノローグ＝発話を産出する個的・生理的な作用でもありません。それは、ひとつの発話と多くの発話とによって行われる。言語による相互作用（コミュニケーション）という、社会的な出来事（共起・共存）です。」（208頁）
「言語相互作用（コミュニケーション）こそが、かくして言語の根本的な実在の仕方だ、ということになります。」（208頁）
「言語の交換（コミュニケーション）は、他の種類の交換と分かちがたく結び合っております。それらの交換の営存と共通の基盤、つまり生産関係の中での交換という共通の上に成長してきたものです。言葉（発話）をこの永続し、生成発展する統一された交換過程から切り離すことは、もちろん不可能なことです。」（210頁）
「言語が生き、歴史的に生成しつつあるのは、まさに今ここでのこの実体的な言語コミュニケーションの中でです。言語学が作りあげた言語形態の抽象的な体系の中でもなければ、語り手の個人的な心理の中でもありません。」（211頁）

4）バフチンらのテーゼ

「1、規範として働く自己同一的な言語形態からなる安定した体系として捉えられた言語は、単に学問的な抽象の所産にすぎない。それは、特定の実用的な目的・理論的な目的にのみ役立ちうるにすぎない。言語の具体的な現実相は、こうした抽象とは一致しない。
　2、言語とは絶えざる生成の過程である。それは語り手・聴き手の言葉による社会的な相互作用（コミュニケーション）という形をとって実現される過程である。
　3、言語の生成過程の規則は、個人心理の規則では決してない。語る個人の活動から切り離しうるものでもない。言語生成の規則は、社会学的な規則である。
　4、言語における生成過程は、芸術や他のイデオロギー（宗教なり科学なり）の個々の領域における生成過程と一致し、重なり合うものではない。しかし同時に、言語の生成過程を充たしているイデオロギー的な意味や価値から切り離しては理解し得ないものでもある。言語の生成過程は、他のあらゆる歴史内の生成過程と同様、盲目的な機械的必然性と感じ取られることもあるが、ひとたび自覚され願望された必然性となるや『自由な必然性』となることもできる。
　5、発話の構造は、純粋に社会的な構造である。発話はそのものとしては語り手と聴き手の間に実在している。全く個人的な発話行為というのは形容矛盾である。」（216～7頁）
「言語はそれ自体で存在しているわけではありません。それは具体的な発話、具体的な言語運用という個々の有機体と結びついて存立しているものです。発話を介することではじめて言語はコミュニケーションに接合します。コミュニケーションに関与する生きた諸勢力に浸透されて、現実的存在となります。他方、言語コミュニケーションにかかわる諸条件、その諸形態、その分化の仕方は時代の社会・経済的な諸前提によって規定されます。社会的な言語コミュニケーションの変わり行く諸条件が、次には他人の発話を引用・伝達する上述の諸話法を規定もするのです。その上、歴史の中で移り変わってゆく社会的・イデオロギー的コミュニケーションの諸類型がはっきりと浮き彫りにされて現われるのも、言語そのものが他人の言葉と、語る主体とを感知するこれらの話法の裡であると考えられます。」（267頁）

5）『ドフトエフスキーの詩学』（ちくま学芸文庫）より

■メタ言語学

「対話関係は言葉の領域に属してはいるが、言葉の純言語学的研究領域に属してはいない。」（363頁）
「対話関係 ――　それはメタ言語学の研究対象である。」（369頁）
「対話関係は、論理的な関係にも抽象的な意味関係にも還元できない。そうした関係はそもそもそれ自体が対話的契機を欠いているからである。」（370頁）

■「二つの声をもった言葉」

「対話的反応は、反応を引き起こすあらゆる言葉を人格化してしまうのである。」（372頁）
「言葉の真の生活の諸条件のもとで、不可避的に生じてしまう、二つの声を持った言葉である。」（373頁）
メタ言語学の諸現象に見られる共通性
「こうした現象にはすべて、相互の本質的差異にもかかわらず、共通の特徴がある。それはこうした現象において言葉は二つの方向性を、すなわち普通の言葉として発話の指示対象へ向う方向性と他人の言葉へ他者の発話へと向う方向性とを持っているということである。」（374頁）
「自らの内に他者の言葉との関係性を必要不可欠な要素として内包した、二つの方向性を持った言葉が存在するという事実がある以上、必然的に文学論、語類論、意味論のどれもが考慮外に置いてきたこの新しい原理の観点からの言葉の包括的で全面的な分類を行う必要がある。」（376頁）
「直接的に対象を指示する言葉が知っているのは、自分自身と自分の指示対象だけであり、言葉はそれに対して、最大限にふさわしいものであろうとする。」（378頁）
　　cf．ブーバー．我 ―― それ．
「同一のテーマに関する二つの等価な言葉は、ひとたび出会いさえすれば、不可避的にお互いに向い合わざるを得なくなる。二つの受肉された意味は、二つの物質のように並び立つことはできず、どうしても内的な相互接触を、つまり意味的な関係を持たざるをえないのである。」（381頁）

■ドフトエフスキーの対話

「ドストエフスキーの主人公の自意識は不断に対話化されている。それはどんな場合にも外部に向けられており、自分自身、相手、第三者に対して、緊張した呼びかけを行っている。自分自身および他の者たちに対するそうした生々しい呼びかけなしでは、自意識それ自体も存在しない。この意味では、ドフトエフスキーにおける人間とは呼びかけの主体である、と言ってもよい。」（527頁）
「いずれの対話にも、公然とした対話の応答と主人公たちの内的対話の応答との交錯、共鳴、あるいは遮り合いがあり、いずれの対話においても、一定のまとまったイデエ、思想、言葉の総体が、いくつかの競合することのない声たちを介して、それぞれに異なった営みの中に実現されているのである。こうしたイデエの総体そのものが、何か中立的で、自己同一的なものとして、作者の目指す対象となっていることは絶対にない。そうではなくて、作者が目指しているのは、テーマを多くの多種多様な声を介して実現させること、つまり、テーマの原理的な、いわば取り消し無効の多声性、声の多様性ということに他ならない。ドストエフスキーにとって重要なのは、声の自己配置法そのもの、声たちの概念作用そのものである。」（558～9頁）

（B）文化知からみた対話の理論

1）バフチンをどう評価するか

■ヴォローシノフとバフチン

『マルクス主義ろ言語哲学』（未来社版）＝『言語と文化の記号論』（新時代社）の作者の問題。原書1929年。この本で展開されている抽象的な言語論への批判と『ドフトエフスキーの詩学』でのメタ言語学＝対話論、とのちがい。

■初期バフチン「言語芸術作品における内容、素材、形式の問題」（1924年頃、生前公表されず）

「簡単に言えば言語学は、言葉の純粋に言語的な要素を分離し、解放して、新たな言語的統一とその具体的な下位区分を作りだすことによって、その対象を、言語学外の価値には無頓着な言語をしかるべく獲得するのである。」（著作集8、新時代社、68頁）
「言語学は自己の対象を完全に、なた方法論的に全く純粋な形で支配する時に初めて、言語芸術の美学に対しても生産的な仕事ができるし、また逆に恐れることなく美学の奉仕を受けることもできるのである。」（同、70頁）
「言語学的に規定された言語は、言語芸術の美的客体には含まれない。」（同、72頁）

■後期バフチン（1952～3年「ことばのジャンル」）

　一般言語学の図式について、「そうした学問的抽象は、それ自体としてはまったく正しい。ただし、ある条件つでだが。つまり、それが抽象にすぎないことがはっきりと意識されており、ことばという現象の実際の具体的の具体的全体を装うものでないならば。そうでないと、それは虚構になる。」（同、133頁）
「図式は最も本質的な要因を排除することになり、言語コミュニケーションの実際の有様をゆがめる。言語コミュニケーションの過程における他者の能動的な役割は、こうして最小限にまで弱められる。」
「言語コミュニケーションの単位としての発話」「分のコンテキスト――それはそのことばの話者の、ことばのコンテキストである。文は、言葉の外の現実のコンテキスト、ならびに他の話者たちの発話とじかに相関するのではなく、文をとりまくコンテキストの全体、つまり発話の全体を介して、初めて相関するのである。」（同、140頁）
ことばのジャンル「発話を枠付けして、関連する他の発話とは厳密に区分された発話の塊をつくりだすことばの主体の交替は、言語コミュニケーションの単位としての発話がもつ第一の本質的な特性であり、発話を言語の単位から区別するものなのである。…第二の特性とは、発話がもつ独特の完結性のことである。発話の完結性――それは、ことばの主体の交替の、いわば内的側面である。」（同、144頁）
「われわれは一定のことばのジャンルでもって話す。つまり、われわれの発話はすべて、（発語の）全体を構築するための比較的に安定した一定の類型的形式をもつ。われわれは話しことばのジャンルの豊かなレパートリーをもつのである。」（同、148頁）
　ことばのジャンルも発話者に対する拘束力をもつ。
　言語的コミュニケーションの三つの局面。
「中立的であって、誰のものでもない言語のなかの語として、また他人が語る他者の発話の余韻に満ちた他者の言葉として。なた、わたしの言葉として。」（同、168頁）

■「テキストの問題」（1959～61年）より

「やや単純化して言うなら、純粋に言語学的な関係（すなわち言語学の対象）とは、言語体系やテキストの枠内での記号と記号との関係（つまり、記号間の体系的ないし総的な関係）なのだ。発話が現実、悟る主体、他の発話にたいしてもつ関係、つまり発話をはじめて真実のもと、美しいもの等にするこの関係は、けっして言語学の対象にはならない。」（同、231頁）
「対話的関係の問題。この問題は、きわめて独特で、倫理学的、言語学的、心理学的、機械論的な関係にも、自然界にみられる他の関係にも帰着させられない。それは特殊なタイプの意味的な関係であって、全一な発話だけがこれに参加できる。それは、現実の言語主体、つまり所与の発話の作者たちを背後にもつ関係である。」（同、232頁）
「対話に加わわらないがそれを理解している第三の人間」（同、234頁）
「第二に、対話的関係を単純化し一面的に理解して、これを矛盾、闘争、不一致に帰着させてはならない。一致は対話的関係のもっとも重要な形式のひとつである。」（同、234頁）
　第三の人間「それは全一な発話を構成する本質的な要因であって、より深く分析するなら、発話のなかにみいだされるはずである。それは言葉本来の性質によるもので、言葉はつねに聞かれることを望み、つねに返答としての理解を求めて、身近なものたちの理解にはとどまらず、つねに先へ先へと進んでいく。
　言葉にとって（ということは人間にとって）返答がないことほど恐ろしいものはない。…
　聞かれること自体がすでに対話的な関係である。言葉は、人に聞かれ、理解され、返答され、そしてまた、これに答えるというふうに、尽きることのないやりとりを求める。」（同、237～8頁）

■「1970年～71年の覚え書き」より

「関係の三つのタイプ――
　一、客体間の関係、物と物との物理、化学的現象の因果関係、数学的関係、論理的関係、言語学的関係等々、
　二、主体と客体との関係。
　三、主体間の関係――人格的、パーソナルな関係。発話の対話関係、倫理的関係等々。ここにかかわるのは人格化された意味的関連のすべてである。意識と正しさへの態度、相互影響、学習、愛、憎しみ、症、友情、尊敬、崇拝、信頼、不信等々。
　だが関係が非人格化されると（発話や文体の言語核的アプローチなどのように）、それは第一の型となる。また客体関係の多くも人格化されると、第三の型となる。物化と人間化。
　主体間関係における主体（人格）の決定。見像（名前）、全一性、責任等々。無尽蔵。不完結、未決定。
　三つの型の関係の転移と混淆。」（同、292頁）
「私のもとに私は何を理解するか。自分の私と他人の私、私にとっての他人と。私のなかで私に直接あたえられるものと他人を通してしか与えられないもの。…私のなかの非私、つまり私のなかの存在、私のなかの私より大きなもの。どの程度私と他人とがひとつの中性的な人間像に統一されうるのか。」（同、305頁）
「私の時間的、空間的境界は私によってはあたえられないで、そのすべては他人によって与えられる。私は一空間世界に入っていくと、そこにはつねに他人がいる。私と他人との空間、時間の違い。それは生きた感覚としてあるのだが、抽象的思想がそれを拭い去ってしまう。思想は私と他人と無関係に、人間のただ一つの一般的な世界を創り出す。素朴な自然な自己感覚のなかで私と他人とは融合する。そこには利己主義も利他主義もさらにない。
　私は他のもの、。他の人のなかにかくれ、ひたすらひとの為に他のものになろうとして、人の世界に他のものになって入り、私（自分にとっての私）という世界の唯一の重荷を自分から投げ棄てる。」（同、305～6頁）

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Author: admin Published: 2006/1/5 Read 2140 times

第8回レジュメ 文化知からみた対話の理論 2000年12月9日

はじめに

■この思想家たちのうち、価値形態論が解っている人

■社会性について