　相馬健次著『戦後日本生活協同組合論史』（日本経済評論社）によれば、70年代以降の生協論は、(1)現代日本生活協同組合論の形成と展開、(2)90年代危機と21世紀展望論、の二つに区分されている。生活クラブの創始者達の文献が取り上げられていない点は問題であるが、日生協主流の動きを理解するものとしては妥当であろう。

　(1)で挙げられている文献のうち、注目に値するものは『転換期の生活協同組合』（大月書店、1986年）、『生協21世紀への挑戦』（大月書店、1992年）『協同組合の新世紀』（コープ出版、1992年）の3冊だろう。これらはいわゆる市民生協のそれまでの発展に即して、以降の展望について述べたものである。ところが90年代に入っての生協の店舗事業高の落ち込みは、これらの文献で述べられていた展望を空文化することとなり、一部では深刻な反省が始まった。

　まずこの三つの文献から、90年代の市民生協の理論を読み取る。次に、90年代の危機についての反省がなされた文献として、(2)で挙げられているものの内、21世紀生協理論研究会『現代生協改革の展望』（大月書店、2000年）をここで素材として取り上げる。

第１章 90年代の市民生協の理論

１）『転換期の生活協同組合』（大月書店、1986年）

　この本は1983年に発足した研究会のレポートである。研究会は京都生協が事務方を勤めた。ちなみに1985年は京都生協創立20周年に当たり、この研究会は記念出版事業としての位置付けを持っていた。従来日本の協同組合研究は農協を素材にしたものがほとんどで、生協を素材とした研究書としては初めてのものだった。

　この本で川口清史は、協同購入の成長率の鈍化と、組合員一人あたり利用の低下傾向を挙げ、その原因「協同購入の教育力･学習力の低下」（169頁）に求め、協同購入の質的強化を課題としてあげている。そして、従来協同購入を店舗の出店の準備として位置付けていたことについて考え直すべき事を提案している。他方で生協の地域活動を店舗を軸に構想すると言う考え方もあり、これは街作りや商店街の保全と言う観点だが、この展望はほとんど実現されてはいないと思われる。また京都生協の府下産直は、農協との協同組合間協同として位置付けられている。

　では生協の社会運動のイメージはどうだろうか。これについて川口は、「その運動は消費者運動を中心にしつつ、街づくり、生活文化、暮らしの助け合い、さらには平和運動など多様に展開されている。」（287頁）「生協それ自体が大衆的運動組織であると同時に、組合員一人ひとりが生協の諸活動への参加をつうじて民主主義的力量を形成し、生協の枠を超えたさまざまな民主的運動の担い手になっていくことにある。」（289頁）と述べている。ここには直接には革新統一戦線の一翼とされているわけではないが、それを支えていく事を期待している事がわかる。

（注）「革新統一戦線」とは、日本共産党を中心とした選挙のための戦線で、「民主的勢力」とは、共産党が組織している労働組合や民主商工会などの諸団体のこと。

　最後に21世紀への展望について、川口は「追いつき型近代化が終わった」時の対抗策として「自立、自治、あるいはそれを基礎にした協同をキーワードにした新しい運動が全国のさまざまなところで模索されはじめている。」（342頁）と述べこれらの運動が「いわゆる民主的な運動という事ではない形」（342頁）が含まれている事を認めている。そして生活様式の変化に対する対応策として「高齢化社会に入るという見通しの中で、それぞれの生活をどう設計していくのかという生涯設計プランが求められている。」（345頁）ということのほかに、婦人の就業率の増加や格差の拡大に対して、「それぞれのライフステージにあった生活様式を考え、提起し、それにふさわしい具体的な商品、サービス、あるいはさまざまな暮らしの協同を考えなければいけない。」（348頁）と述べている。また地域作りについては「生協が地域の中で過半数を組織するだけの大きな社会的な力になる事によって、地域の産業や地域の仕事をどうつくりだしていくのかということが、生協の新しい社会的役割として無視しえない課題になってきている。……生活協同組合が住民の代表として、消費者の代表として地域産業と結びついていくことが大事になっている。」（352頁）「主婦の就労を生協運動の中で取り組んでいくという姿勢が必要になっている。……生協に雇用するだけでなく、生協も含めて全体として主婦の労働を地域で協同化していくことを考えなければいけない時代にきている」（352頁）と述べている。このように述べることで川口は革新統一戦線という共産党の従来の方針では包摂できないような新しい運動が起きていることを認めており、協同組合運動の新しい波が労働者協同組合運動として展開されていることも知っている。しかしその運動に対してどうするかという方向性は提起できてはいない。

２）『生協21世紀への挑戦』（大月書店、１９９２年）

　この本は先に取り上げた本を出版した京都の研究会が引き続きICA東京大会に向けて用意したもので、そこでは京都の研究会が母胎となって現「くらしと協同の研究所」を準備していることが公表されている。ここでは第４章の第４節「消費の組織化」戦略と事業連帯、について紹介しておこう。「消費の組織化」について、前の本では序文で触れられているだけであるが、この本では戦略として展開されている。

　まず、「消費の組織化」について次のように定義づけられている。

　「消費の組織化とは、世帯組織率20％にもかかわらず小売シェア2.6％という現在の事業水準を飛躍的に高めて、結果として小売シェアを世帯組織率なみに引き上げることをいう。より性格にいうと、生協の事業活動が組合員生活の全般をカバーできるように、その幅と深みをつけるということがねらいである。これは、共同購入業態だけでは達成の出来ない課題であり、店舗業態の展開が必要不可欠となる。」（134頁）

　ところが店舗業態は大手スーパーとあらゆる面での競争にさらされるため、「個別の地域生協だけでは容易に達成できない課題である」（134頁）ので、「消費の組織化」は個別地域生協を越える事業連帯の成否にかかっているというのである。

　この地域的連帯が、県境を超えたリージョナルな事業連帯である。これは日生協傘下の上位30生協（多数者生協：日生協全体の事業高の60％を占める）を中心に取り組まれ始めている。

　ここには本来「地域」生協として出発した多数者生協が、事業の拡大の中で「消費の組織化」という地域作りとは異なる目標を掲げていることが判明する。このことは80年代という日本経済のバブル期に、先の本で述べられているような、地域作りの取り組みが形をなさなかったことの帰結として、事業高の伸張に地域での影響力の拡大を夢見たもののように思われる。現実には90年代こそ地域作りが問われていた。この時期に「消費の組織化」戦略で、結果としては伸び悩み、店舗事業の失敗に陥ったのだが、これをどう総括するのだろうか。

３）『協同組合の新世紀』（コープ出版、1992年）

　この本は1992年に東京で開かれたICA世界大会に向けて生協総合研究所が編集したものである。ICAは日本の生協が班共同購入で拡大していっていることに注目しており、その注目に対する対応として編集されている。

　序章第一節「日本型生協モデルの形成と発展」では日本型モデルを「組合員自身の活動をもとに、組織としての班、事業としての共同購入を中心として70年代以降現在まで発展してきた運動」（9頁）と捉え、ヨーロッパの生協が停滞したのに対して日本が発展できた理由について次の三つの要因を挙げている。

　「第一の要因は、組合員中心の運営に徹し、その力でもって発展の原動力としてきたことである。『班』という組合員組織、『共同購入』という供給形態の結合がまさにそれであり、日本以外のいずれの国にも例をみない方式である。

　第二の要因は、日本はヨーロッパのように戦前において生協の確立をみることなく、60年代に足掛かりをつけ、70―80年代に発展への道を開いた若い運動であったということである。これには時代的な背景も有利に働いた。日本経済の発展と期を一にしたことが生協に量的成長をもたらすとともに、高度経済成長政策の歪みから生じた生活の見直しと改善の機運は、主婦を中心とする生協の組織に運動的な広がりを与えることになった。これはヨーロッパの生協が戦前においてすでに成長期から安定期に達し、60年代以降衰退期に陥るなかで社会と経済の激動に遭遇し、相対的に力を失っていったのとは大きく異なるところである。

　第三の要因は、日本の主要な大学には生協があって、その人材が60年代の後半から70年代にかけて、各都道府県に核となる生協をつくるために、意識的に参加し、集中的に努力したということである。伝統と経験のある生協とこうした新しい生協が、力を合わせて運動をすすめてきたところに、発展の原動力がある。このなかでの大学生協の存在と地域生協づくりへの貢献は、日本以外にはみられない特徴である。」（10頁）

　これらをまとめて次の三つの利に整理している。

(1)「理の利」　組織と事業のわかりやすさ　班と共同購入
(2)「時の利」　経済成長という追い風と生活の見なおしの気風
(3)「人の利」　運動意識を備えた人材の力

　次に第二節「時代、事態、自体の見直し」を見てみよう。

(1)　社会変化のトレンドについて次の項目が挙げられている。
　＊低成長の常態化　＊資本主義経済の矛盾の拡大　＊グローバル化とブロック化の矛盾　＊南北格差の激化　＊資源･環境問題の深刻化　＊日本における「政治危機」　＊生活構造と意識の変化―生活重視へ（14～5頁）

(2)　生協自体に内在する変化促進の要因として次の諸項目が挙げられている。
　＊経営環境激変のなかでの生協　小さなパイの奪い合いの時代へ　＊資本主義経済の矛盾増幅になかでの生協　協同の理念や非営利組織への期待が高まる　＊資源･環境問題の深刻化のなかでの生協　資源と環境保全の枠内での経済運営　＊生活構造と意識変化のなかでの生協　商品はほしいが班はわずらわしいという人への対応　＊転換点を迎えつつある生協　企業の寿命は30年、時代の転換と生協の転換期が一致して到来している。（16～8頁）

　さらに第三節「生協運動の全面開花にむけて―今後の生協運動の視座の確立」では次のように問題提起がなされている。

(1) 求められる発想の転換　三つの利の消失に対する対応。ベーク報告の引用、協同組合の価値と矛盾しない経済的な効率性の追及、と組合の民主主義的な運営。
(2) 新しい視座に求められるもの　＊日本的経営の見なおしと生協の視座　生協中心主義の克服　＊生活意識･行動の変化と生協の視座　生きがいと働き甲斐の区別　＊内なる改革要因と生協の視座　　日本的集団主義のよいところとしての班･共同購入、これはいつまでも続かない、多様な広がりが必要。創業者であるトップの交代の問題。
(3) 協同組合運動発展への確信　確信をもとに新しい視座で活動する。（19～25頁）

第２章 90年代危機の総括

１）CRI：協同組合総合研究所

　21世紀生協理論研究会とは、コープ神奈川などが設立した研究所であるCRIの研究プロジェクトの一つである。この研究所は90年代初頭に起きたコープ神奈川の紛争に端を発した改革運動をリードしてきた。この研究会も改革をどう進めていくかという問題意識からもたれている。

２）『現代生協改革の展望』（大月書店、2000年）

　この本の副題には「古い協同から新しい協同へ」とある。従来の主流の生協運動が土台としてきた協同は古い協同であり、今こそ新しい協同によって生協運動は改革されていかねばならない、というのが基本的主張である。

　では古い協同とは何かといえば、同質者の協同であり、新しい協同とは異質者の協同であるという。古い協同とは日本的共同性に基づく日本的同質性によるもので、異質者を排除してきたが、90年代に入って、ポスト工業社会となり、社会から日本的同質性が失われていったときに、この古い協同も機能しなくなった、という。したがって新しい協同とは、ポスト工業化された社会が生み出した異質者の協同が実現できるような内容でなければならないというのである。引用しておこう。

　「工業化段階の協同は、同質的な人間を前提にした協同であり、古き共同性を前提にした協同であった。しかしこのような協同は解体したのである。……生協改革の出発点で登場し、……ここに現われたのは自由な個人の萌芽なのである。自由な個人が自らの要求に照らして、旧来の協同の問題性を徹底して暴露し、新たな人と人との結びつき＝協同を模索し始めたのである。つまり、物象的な関係として展開する関係性に対して、それを自らの内面に即して批判的に吟味し内実化しようとしているのである。」（29～30頁）

　二つの協同についてのもっと具体的な区別についてはさらに次のように述べられている。

　「古い協同とは、第一に共同体への依存や共同体への郷愁を伴った協同であったという点である。……第二は、日本経済がこれまでそうであったように、大量生産＝大量消費に依拠した協同であったという点である。……第三は、少数代表民主主義による協同であったという点である。……第四は、イデオロギッシュな協同であったという点である。

　新たな協同の特徴は次の通りである。

　第一に、同質で集団主義的な協同から異質で多様な個人の協同への転換である。……その前提は共同体の完全な解体であり、個人の自由な発展である。……第二に、共通の多数ニーズを満たす協同から多様な個別ニーズを追求する協同への転換である。……第三は、少数代表民主主義による協同からコミュニケーションと情報公開に依拠した参加型民主主義による協同への転換である。……第四は、協同組合中心の動員型のイデオロギッシュな協同から多様な事業体や運動体によるネットワーク型の自発的な協同への転換である。……指導原理や組織原理の優先した抑圧的な運動ではなく、自律的個人を優先する運動へと転換されるのである。」（75～7頁）

　ではこのような問題提起はどのような実践的裏づけを持っているのだろうか。それはこの本でも明記されているように、ちばコープと宮崎県民生協の経験である。

３）ちばコープ

　組合員とのコミュニケーションを生協運営の基本に据えているのがこの二つの生協であるが、まずはちばコープが先導し、宮崎県民生協がそれに学んでシステム化し、一旦停滞していたちばコープが宮崎県民生協に学んで現行のシステムを形成したということである。

　ちばコープの「改革の目的は、(1)組合員の声を聴き続ける仕組みづくり、(2)組合員の声に応え続ける仕事スタイルづくり、(3)組合員の声を実現する組織体質づくり、(4)思いを事業化できる生協づくり、であった。」（229頁）

　「ちばコープの組合員の声を聴く仕組みとしては、主に次のようなものがある。
『ひとことカード』―組合員が日常的に意見を寄せるカード。
『500人アンケート』―商品だけでなく、さまざまな意見を集約。
『コミュニケーション日報』―職員が対話のなかでの組合員の声を報告。
『ひらめきカード』―職員の業務改善提案。
『ポストイット』―店舗での声のメモ。
　その他にも、班会や地区委員会でのさまざまな声が集約される仕組みがある。」（230～1頁）

　宮崎県民生協との違いは生協の外でのNPO活動が盛んなことだという。

　しかしちばコープのやり方を、日生協多数者生協が導入しようとしても、余りうまく行ってはいない。というのもちばコープの場合価値観の転換が図られているからだ。この問題をヌキにすると、「声を聴く」活動もクレーム処理に矮小化されることになってしまうのであろう。

４）宮崎県民生協

　「よくするカード＆よかったよカード」｢担当者日報｣　組合員の声を聞く仕組み　など。(詳しくは『現代生協改革の展望』補論、参照)

第３章議論をどう受け止めるか

１）日生協の90年代危機

　堀越論文「生協経営危機と経営改革」（中川雄一郎編『生協は21世紀に生き残れるのか』大月書店、2000年、所収）によれば、生協の「経営危機の現出の分岐点は89年および91・92年のことであり、このことの状況把握ができなかったことがその後の危機を増幅させていった」と分析している。危機の指標は「規模の拡大が面積効率を低下させる」ということであり、店舗部門の赤字を共同購入の黒字によって補うというそれまでのやり方が、大規模店舗の拡大と、共同購入の頭打ちで崩れていくという見とおしであった。

　ところが現実には、90年から92年に「共同購入から店舗供給へ」「小規模店舗から大規模店舗へ」と政策上の大転換が進められ、それが94年以降も継続されることで、経営危機が現実のものとなったというのである。

　この危機に対して、「消費の組織化」という従来のやり方の延長に、リージョナル事業連帯の動きが進められており、これに対して企業化と捉えて、コミュニケーション型の生協や、コミュニティ貢献型の生協が構想されているというのが現状であろう。

２）消費の組織化論

　これは生協の運動を購買運動と捉えるところからきている。これには二つの傾向があり、一つは経営者支配論で指摘されている、経営者グループの経営の規模拡大への衝動に基づいている。もう一つは地域での購買力を組織することで、革新統一戦線の裾野の拡大が図れるという思惑である。後者に関していえば、消費を組織して得られるものは、新しい社会運動の進展であっても政治的な運動への回収とはならなかった。そしていわゆる「民主的勢力」は新しい社会運動に敵対的感情を持っていたのである。

３）コミュニケーション型生協論

　購買力の組織化が政治的運動にはつながらないことを認め、組合員の主体をそれとして認めることからコミュニケーション型生協の試みは始まっているように思われる。ちばコープの例のように、これによって生協を地域に開き、地域での組合員の活動により添う形で展開できていけば、面白い取り組みになる可能性はある。しかし、このやり方を生協の供給高の増加といった観点からまねをしてもうまく行かないように思われる。コープ神奈川の研究所の『現代生協改革の展望』に美森論文が載っているが、そこでは協同組合主義を批判しつつ政治的な運動の基盤となるような生協運動をコミュニケーション型を採用することによって実現しようという想いが語られている。これも運動実態から離れた議論のように思われる。

４）コミュニティ貢献型生協論

　これはいまだ少数派であるが、21世紀という尺度で見れば検討に値する。もともと日本の生協運動も、60年代後半から70年代にかけて、市民生協が飛躍的に拡大するまでは、生協は労働者の福祉運動として展開されていた。この見解の中心的論者の中川はイギリス協同組合の専門家で、イギリスの場合生協といっても日本のように主婦の運動ではなく、労働者の運動であることを紹介している。もし日本でも生協が地域作りについて本格的に関わろうとするならば、地域での労働組合（連合退職者の会や労福協など）との連携が日程に上ることだろう。

５）協同組合主義

　生活クラブ連合会第4次中計より。

(1) 食の自給力向上
(2) 持続可能な循環型社会づくり
(3) 協同する地域社会づくり
(4) 「協同組合の価値と原則」の重視

　伝統的左翼の目からすれば、このような課題は改良的な要求に見える。それよりは革命的な要求（といっても議会政冶の枠内での要求だが）や抵抗の闘いが好ましいのである。日生協の多数者生協に比べ、石鹸派の生活クラブやグリーンコープは、協同組合主義の立場をとっている。それは創業者の岩根氏や武田氏の理論に顕著である。

　歴史的に見て、協同組合運動は色々な政治勢力に利用されこそすれ、自らのアイデンティティに基づく運動を展開できた例が少ない。戦後ではモンドラゴンが唯一の例であろう。そしてモンドラゴンを評価したレイドロウ報告を受け止めた日本の生協運動の一部に、協同組合主義的立場が形成されている。

　現在の協同組合主義の立場は、まず、国家権力を掌握しなければ社会革命は始まらないという左翼諸政党の考え方を否定する。社会変革はいまここで遂行されていく課題として受け止めることが必要なのである。

　この考え方からすれば、日本における社会変革の課題は、日常生活に関わる課題の解決という問題となる。まず、農業の自給力の回復であり、食や生命体についての食料主権の確立であり、ごみ問題のEPR完全実施による解決であり、地域のコミュニティ作りによる子育てや高齢者への対応であり、……その他諸々である。

　これは従来最大限綱領（いまの社会で実現できる要求としての最小限綱領に対比して、将来の社会でしか実現できない要求のことをこう呼んだ）呼ばれて、将来の問題とされていた要求をいまここで実現するということとしての意味を持つ当面の要求の確定ということになろう。この要求の確定は、新たな生協運動のプログラム作成としての意義を持つと思われる。

６）新たな生協運動の課題

＊協同組合主義の見地から、生協運動を位置付ける。

　協同組合主義が運動の中心的な思想とならざるを得ない時代の登場。一口で言えば、資本主義が生産企業中心の時代から、お金にお金を生ませることが中心となる時代へ移行し、人々の生活が丸ごとこのお金儲けのシステムから排除される時代となっていること。生産企業は労働者を雇用している関係で労働者の生活に関心を持っていたが、投資ファンドは人々の生活に関心はない。これがいつまで続くか判らないが、このような時代には自助・協同を掲げた協同組合の役割は大きくなることは間違いない。

＊いまここでの問題解決型の要求の持つ意義を明確にする。

　「社会改良」と見なされて、左翼の運動家からは意義のない闘いと見られていた社会問題の解決が、社会変革としての意義を持つことを明確にしよう。社会問題の解決は、いまの社会に新しい文化を発信し、この文化が対抗文化として、社会変革の際に要求される重みに寄与する。

＊個々の問題の解決についてのプログラムを策定する。

　解決しない社会問題はありえない、という立場で解決のためのプログラムを作成する。問題が解決しないのはさまざまな利害関係者相互の争いが続くからである。問題解決にとってどの関係者が障害となっているかを示すこと。容リ法改正で象徴されるごみ問題は最初の課題だろう。

＊プログラムの実現可能性

　プログラム作成時に出てくる疑問は、役に立つのか、実現可能かという問題である。これに対しては、現代の経済システムにあっては人々は無意識のうちに意思支配されていて、自分がいいと考えることでも、現実には実行できないという矛盾があることを認めることから出発すべきだろう。プログラムが存在すること自体が大切なのである。

＊生協運動の仕組みの確定

　旧来の生協運動では、産直運動・働く場作り運動・地域作り運動の三つを掲げてきた。途中から商品政策や共同購入運動が提起された。そして経営基盤の確立は、なかま作り運動として、業務と組む形で取り組まれてきた。

　いま必要なことは、コミュニケーション型生協運動にどう学ぶか、またコミュニティ貢献型生協運動をどのようにして実現するかという課題を解決して、生協運動の仕組みを確定することであろう。

　生活クラブ連合会が共同購入事業を軸にしていることに学び、共同購入事業をまずたてた上で、共同購入運動・産直運動・働く場作り運動・地域作り運動をそれぞれ位置付けることが問われているように思われる。

　共同購入事業に理事会と組合員はどのように関わるのか、このことの検討が、コミュニケーション型の生協運動を構想するときに問われてくるだろう。そしてコミュニケーションを、生協を地域に開くような形で実行できるようにする仕組みは可能なのだろうか。これは実践的な課題である。

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Author: admin Published: 2006/8/2 Read 4213 times

研究 現代生協論の地平

１） はじめに