2001.7.21　榎原均

　ところでこのように考えるとき問題になるのは、コミュニケーションの不全ですね。フリーターネットワークにかかわっている若い人達と話していると、マルクスについては何も知らないかわりに、私たちの世代にとっては全然信頼感がなかった心理学について、随分詳しいのですね。だから議論しても意味を通わせることがなかなか難しい。
　インターネットで議論すれば、それぞれの見解は全然収束せず、バラバラなまま、ということはしばしば経験します。しかしそれでは、運動の中で信頼関係をつくっていけるということにはなりません。

　どうすればいいのかと案ずるよりも産むが易し、です。ローティが紹介しているフィールド言語学者ディヴィドソンの「つかのまの理論」を応用してみましょう。フィールド言語学とは、お互いに言語を異にする話者どうしが、どうやってお互いに意味を通わせるようになるか、ということを研究しているようですが、ローティによれば、「ディヴィドソンの要点は『互いの話を理解したいのならば、二人にとって必要なものは、発話と発話のあいだでつかのまの理論を収束させる能力がある』だけでいい」（『偶然性・アイロニー・連帯』34頁）のです。

　この「つかのまの理論」を応用してみましょう。私たちは日本語で話しをしていますから、言葉を伝えることはできますが、しかし、同じ用語が別の意味で理解されているとすれば、言語は伝わっても意味が伝わらない、という事態がおきます。ですから対話の場を意味の伝達の場や意志の統一の場と捉えていると大きな間違いを起こすことになります。というのも言葉は伝わったとしても、意味が伝わっているとは限らないからです。

　では、対話をお互いが「つかのまの理論」を収束させあう場と捉えたらどうなるでしょうか。そうすることで議論自体が収束していけば、コミュニケーション不全も解消されていくでしょう。それはまた、意識の圏にとりこまれはしない存在、意識にとって他者としてある存在について了解していける能力をお互いにつちかっていける場ともなることが期待されてもよいでしょう。フリーターズネットワークをこのような場としてつくり出すことに努力してみます。

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Author: admin Published: 2006/1/5 Read 2539 times