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現場から5: 日本社会での就労の新たな展開を探る

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日本社会での就労の新たな展開を探る

2004年6月5日、第21回全国地域・寄せ場交流会報告

テーマ　ニュースタートのひきこもり支援の現場から

1）ニュースタート事務局関西の活動

（経過）

1998年10月

二神能基氏を講師に、講演会「大学生の不登校を考える」を開催する。以降毎月1回定例の「大学生の不登校と若者の引きこもりを考える会」を開く。

1999年夏

新しい社会運動を目指したアソシエ21に共感し、ニュースタート関係者の有志でアソシエ21関西事務局設立にむけ11月集会に取り組む。

2000年夏

新しい社会運動に期待を持った若者たちと出会い、有志で京都での地域通貨キョート・レッツの立ち上げに参加する。引き続きおおさかレッツの準備にも関わる。

2001年1月

京都にて「鍋の会」を持つ。グループセラピーとしての意義を持つ鍋会はその後定着し、毎月2回実施し、100回近くになっている。この頃からニュースタートパートナー（NSP）活動が始まる。

2001年11月

高槻市に共同生活寮を開設。2人の寮生を受け入れる。高槻市を拠点地域とし、人材を集中しはじめる。フェルマータなどの地域のNPO団体との連携を強める。冊子『引きこもりは病気ではない』を発行。

2002年1月

この頃から、ニュースタートの事業の担い手たちの働き方をどうするかの議論が始まり、ワーカーズ・コレクティブ（W.Co）方式を採用する事になり準備を始める。

2002年6月

NSP活動に関わる事業をW.Co方式に改組しようと試みた結果、先にサポートする団体を立ち上げないとうまく行かないと判断し、W.Coサポートセンター設立準備会を発足させる。

2002年10月

NSP活動に関わっているメンバーを中心に協同組合NSワーカーズが設立される。

2002年4月

滋賀県大津市堅田の竹村農園で米作りの農業塾が始まる。

2003年秋

NPO法人フェルマータと共同して「よすみ総合福祉住宅」建設に取り組み新たに集団寮としての「よすみ寮」を開設、入居者の募集を始める。（現在8名の寮生を受け入れている。）

2003年9月

W.Coサポートセンターの社会教育事業が開始される。

2003年11月

W.Coサポートセンターが大阪府よりNPO法人の認証を得る。

2004年1月

5周年記念の「NS祭り」を実施。（高槻地域生活支援センターにて）記念誌を発行。カラオケ喫茶「有希乃」営業開始。

2004年2月

高槻市富田の駅前に事務所を開設。専従職員を配置。

（活動）

＊大学生の不登校と若者の引きこもりを考える会（例会）。毎月第3土曜日開催。
＊鍋の会。毎月第2・第4日曜日開催。
＊NSP活動。部屋にこもっている若者への訪問活動。有償で実施。
＊共同生活寮。ケア付き住宅。
＊若者の会（自主運営）。
＊女性の集い（自主運営）。
＊スポーツの会（自主運営）。
＊MR・夕食会。
＊農業塾。田んぼで米の栽培。
＊コミュニティビジネスの開始。
＊HPの開設。通信の発行。

（組織）

NPO法人ニュースタート事務局関西（例会の主催、相談活動、事業のコーディネート）
協同組合NSワーカーズ（NSP活動、鍋の会、共同生活寮の運営）
NPO法人ワーカーズ・コレクティブ・サポートサンター（農業塾、社会教育事業、コミュニティビジネス）

（主張）

＊引きこもりは社会病理であり、個人の内面の病理ではないので、精神科の手におえないものなのではなかろうか。原因は競争原理の元に成長してきた株式会社主導の日本社会の社会システムが制度疲労に陥っているところにある。
＊社会病理の解決法として、「家族を地域に開く」事を出発点に、雇われて働く事とは別の働き方で起業していく事を目指し、地域でコミュニティビジネスを立ち上げて住民主体の地域自治を実現する。

2）引きこもりとは何か、どのように対応するか

（斎藤環『社会的ひきこもり』1998年発刊、より）
　社会的ひきこもりの定義。「20代後半までに問題化し、6ヶ月以上自宅にひきこもって社会参加をしない状態が持続しており、ほかの精神障害がその第一の原因とは考えにくいもの」（25頁）。90年代初めから精神科の患者として来院するようになった。自力で脱出できるケースは少数で、長引くほど悪化するのでサポートが必要。およそ100万人いると推計される。
　治療的介入。個人の病理としてではなく家族や近隣を巻き込んでいる「ひきこもりシステム」を解消する事が必要で、当人に対する治療行為ではなく家族や地域を含めた治療的介入が必要。根本的には「本来的な意味での『自由』を享受し損ねている、この時代の病理」、つまり自由である事それ自体が葛藤の原因となるような日本社会の病理に帰せられる。

（ニュースタート関西の取り組み）

　家族を地域に開く。例会、鍋の会、共同生活寮。対人恐怖の解消。鍋の会、MR、食事会、共同生活寮、種々のイベント。社会参加。農業塾、人間塾、起業塾、コミュニティビジネス、仕事体験。新しい働き方。企業に就職できる人はよいとして、出来ない人のために、スローワークを旗印にワーカーズ・コレクティブを設立し、仕事作りに取り組む。

3）就労の新たな形態としてのワーカズ・コレクティブ

（私の思想的歩み）

A）従来の革命理論の通説批判（1985年頃まとめたもの）

（1）階級の解体ではなく、階級の成熟。階級闘争が正面に出ていた頃の階級は解体されたのではなく、成熟した。階級に所属しているという意識はなくなり自由な個人という意識が前面に出ている。これが今日のプロレタリアの存在様式となった。
（2）階級闘争のあり方の変化。従来の革命理論の内容をなしていた、永続革命と先行的権力奪取（権力を獲得しないと社会革命は始まらないという考え）は、成熟したプロレタリアートの革命戦術ではなくなった。協同組合的社会を実現していく運動の重要性。プロ独でもないのに文化革命が課題となってきている。「新しい社会運動」の時代へ。
（3）その際、プロレタリアートの労働力商品所有者意識とどう対決するかが問題。

B）ソ連の失敗の根本問題（1988年頃まとめたもの）

（1）商品・貨幣は商品所有者の無意識のうちでの本能的共同行為によって日々創り出されている。だから政治権力を奪取してプロ独をもって政治的な意志の力で商品・貨幣を無くそうとしたソ連共産党の試みは、本能的な行為に対して意志に働きかけるという背理を含んでいた。
（2）無意識のうちでの本能的共同行為は、それが働かなくなるような条件を迂回して形成することで始めてなくすることができる。晩年のレーニンが提起した文化革命はこの問題意識に接近していたが、スターリンによる農民の強制集団化は文化革命の可能性を封じてしまった。
（3）ソ連は70年を経由してネップの段階に回帰した（これはソ連崩壊時のもの）。旧ソ連や中国は欧米並みの資本主義化に向かうよりも協同組合的社会に向かう方がはるかに容易である。

C）現代における社会革命の条件（1994年頃まとめたもの）

（1）資本制的外皮の社会化（企業の形態がオーナー企業から株式会社に、金本位制の廃止、グローバリゼーションなど）によって、これまでの資本主義は、労働の社会化が生み出す社会変革のパワーを封じ込めてきた。しかし今日では資本性的外皮の社会化は極点にまで達していて、その一層の社会化は、私的所有の上に立つ資本が資本として存続することを不可能にして行くだろう。
（2）オルタナティブなシステムの形成は「もうひとつの働き方」による。
（3）社会的無意識を対象化できる新たな知が必要。

D）現状分析のための作業仮説

（1）資本性的外皮の社会化はどのように進行しているか。情報化による第三次産業の増大と労働形態の変化。資本が私的資本であることの問題性はどこに顕在化しているか。
（2）「もうひとつの働き方」の担い手はどのようにして自己を形成していっているか。
（3）担い手達は新しい文化を発信しているか。
（4）新しい主体にふさわしい思考はどれだけ成熟してきているか。個と個の間に主体を見る新しい協同主体論。社会的無意識を対象化し得る新しい思考（文化知）。

（現状分析の試み）

A）女性学に見る日本の現状の問題点

　日本の女性学は、現状分析と未来のジェンダー平等なシステムについては明らかに出来ているが、そこに到るプロセスと運動主体が明らかにされてはいない。このことの基本的な原因はジェンダー平等を実現しようという運動主体が、脆弱であることによる。ヨーロッパの諸国では労働組合と労働者政党の力が日本のようには衰えていず、また女性差別反対の課題にも取り組んでいて、運動主体として機能している。

B）問題点の解決の方向

　日本の労働運動の衰弱の原因を明らかにすること。労働運動以外の主体の形成の可能性について考えてみること。若者の保守化、自己神格化の解毒について考えること。

C）労働運動の衰弱について

　基本的には日本社会党の分裂と解体状況という要因が挙げられるが、この党は実は労働組合を支持基盤にしていて、大企業本工を基盤にした企業内組合が、高度成長期に労使協調路線を取ったことが社会党の解体の大きい原因となった。他方で日本共産党は今にいたってもソ連社会主義の崩壊の原因を解明できていず、伝統的な政治作法にとどまって、有効な問題提起を出来ないでいる。

D）ソ連は何故崩壊したか

　政治権力を獲らないと社会変革は出来ない、というマルクス主義のドグマが間違いであったことを示した。社会変革の目標は階級の廃止であり、そのためには商品・貨幣・資本の廃止が必要とされていた。ところが商品から貨幣が生成されるのは、商品所有者たちの無意識のうちでの本能的共同行為によるのだから、その廃止を意識的行為で行おうとすることには背理が含まれていた。無意識の行動を意志（政治や行政）の力で統制することは出来ない。商品や貨幣を無くすためには、それを生成している無意識の共同行為を発現させないような状態を迂回して作り出すことが必要だった。（例えば地域通貨は部分的にではあるが貨幣生成の共同行為への侵害を実現している）。

E）迂回路を創り出す新たな主体

　商品や貨幣の問題点は、それが資本を生成し、さらに信用制度を発達させ、今日のボーダレスな投機経済を創り出したことにあるが、その本当の危険性は人が意志をシステムに宿してしまい、理性的判断での行動を阻害してしまうところにある。いくらいい事を考えても実行できないというジレンマはここに起因する。とすれば雇われて働かず、創ったものを商品にしない、という生活のパターンにあこがれを持つ人が増えるのもうなずける。今のところ皆が皆こんな生活が出来はしないが、資本を生み出さないような働き方はじわじわと増えてきており、とりわけ地域自治の要の役割を果たせるところにまで到達しつつある。（NPOやワーカーズ・コレクティブなど）。

F）解放思想

　政治権力を獲得しないと社会変革は出来ないという立場からすれば、人々の政治意識を高める事が大切となり、高い意識を持った人を創ろうと努力する事になる。解放思想もその重点を人の意識を高める事に置かれてきた。でも迂回路を創り出す事が問われる時代には政治意識の高さだけでは意味のある活動は出来ない。今取り組んでいる事自体の方向性が直接的に解放へとつながっていないという事だから、「いま、ここで」の生活の意味を問う形での思想の転換が問われる。現状はどうしようもないことが判明し、将来のシステムも設計可能なのに「いま、ここで」の運動の支えを解放思想が提起できていないのだ。

G）新しい思考

　ケアの経済学は「ケアレス・マン」モデルを批判し「新しい労働基準」を提案している。これはこれで将来のシステムを設計するには欠かせない。「いま、ここで」に答えるためには、人々の社会形成についての考察が問われる。社会も貨幣と同様に、人々の間の無意識の行為によって生成されているに違いない。人と人の対面の場で社会は都度生成されていると考えてはどうだろうか。他者に対して人はお互いに一般的他者の態度を取得する事でお互いに承認しあうが、この時社会を生成しあっているのだ。この意味で「いま、ここで」の主体とは対面関係で社会を生成できるという事との関わりで考えてみる必要がある。

H）運動の変遷

　70年代初頭まで。労働組合と労働者政党およびその同伴者としての学生が運動の主体となり経済闘争でも政治闘争でも大衆的な運動が展開された。階級意識が運動の支えであった。政治批判が運動の焦点をなしていた。
　80年代半ばまで。市民運動が中心になる。運動を支えた意識は多様化し、文明批判や、自己否定や、一人一人がいい事をすれば全体が変えられる、といったような、個人からの発想が中心になる。市民社会をよりよいものへするために行政に要求する事が課題に。
　90年代から。新しい社会運動の定着。その特徴を自己を事業体に組織した市民の運動と捉えたい。参加型の経済システムによる問題解決型の運動。地域自治を政治課題としてではなく、自らが実現している経済的なコントロールを基礎にして、経済と政治を社会に埋め戻す活動と考える。「もうひとつの働き方」の実現が主体形成の方法となる。以上