　この歌詞は、60年代当時の左翼の活動の不毛さをこのように描き出し、そして、80年代から90年代にかけて流行した、自分を変えるとか、生きがい探し、といった事態を予言していました。

　でも、自分の心の探求ということの流行のはてに見えてきたのは、自分の心をのぞけばそこに社会が見えてくる、ということではないでしょうか。ユングやラカンの心理学もこの間流行しましたが、これらの泣き所は、この心の中に見えてきた社会を解読する方法を持てていない点にあるのではないでしょうか。その結果、人間の幼児体験や、人間の心の構造なるものについての勝手な思いつきを述べることになりますが、そうなると密教の世界とあまり変わりません。この手の発想は、自分を受け容れてくれない外の現実は幻影で自分の内心にこそ真実がある、という転倒した世界観を助長することになりかねません。そういえば、オカルトもずい分流行し、大きな本屋の精神コーナーはコミックと並んで増え続けました。

　自分の心の中に見えていたものが社会だとしたらこの社会は心の外にある社会の分析で事足りるでしょうか、それでは不十分でしょう。この見地からは社会についての見方そのものが変わります。

　社会は心の外にあると同時に、人間の心の中に侵入し、そこにすみついている、そのようなものだと捉えられるようになります。ゲーテは、内にあるものは外にあり、外にあるものは内にある、と述べているそうですが、社会とは、外にあるものと内にあるものとが結びついてあるものではないでしょうか。

　では、こんなある意味では奇妙な存在を捉えることができるのでしょうか。

　それを解くかぎは、意識をどう捉えるか、というところにあるようです。
　意識は人間の実践に属しますが、社会はこの意識をはじめとする人間の種々の実践を媒介にして心の中に入ってくるのではないでしょうか。
　そういえば社会心理学という学問がありましたが、この意味での社会の解明にそれが成果をあげているのでしょうか。

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Author: admin Published: 2006/1/5 Read 2686 times